Sidekickブラウザとは|何ができて、どこで詰まるか

Sidekickブラウザとは何か、を調べてたどり着いた人がまず知る必要があるのは、機能の一覧ではない。この製品は現在、配布が終わっている。公式サイトのアドレスは別の会社の別の製品へ転送される状態になっており、新しく入手する経路が残っていない。それでも「何ができる道具だったのか」を知る意味はある。タブが増え続ける状態を直したくて検索している人にとって、この製品が解こうとしていた問題の形は、そのまま自分の問題の形だからだ。

検索してたどり着く前に知っておきたい現在の状態

事実を時系列で並べる。Perplexityが2025年5月にSidekickを開発していたチームを買収した。その約3か月後、2025年8月3日にSidekick本体の提供が終了した。2026年9月11日の時点で公式アドレスの meetsidekick.com にアクセスすると、HTTPの301応答で comet.perplexity.ai へ恒久的に転送される。転送先のCometは、買収したチームが加わって作られたAIアシスタント型のブラウザで、Sidekickの続きではなく別の目的を持った製品として公開されている。

この経緯には、読む人が引っかかりやすい前段がある。Sidekickは終了の少し前、2024年のうちに「年内で提供を終える」という趣旨の案内を一度出しながら、その後も稼働を続け、2025年1月の時点でも有料プランの契約を受け付けていた。買い切りの案内を過去に受け取っていた利用者のあいだで、終了の告知そのものが本当なのか疑われる状況が生まれていた。終了の告知が出てから実際に止まるまでの期間と、その間の課金がどう扱われるかは、この分野の製品を選ぶときに見ておく行になる。

Sidekickが何をする道具だったのか

土台はChromiumだった。Chromiumは、Chromeの中身にあたるオープンソースのブラウザ計画で、開発元は次のように説明している。

Chromium is an open-source browser project that aims to build a safer, faster, and more stable way for all Internet users to experience the web. 出典: chromium.org

この土台を選んだ製品は、ページの描画とChrome拡張機能をそのまま引き継ぎ、外側の作りだけを取り替えられる。Sidekickが取り替えたのは、まさにその外側だった。横一列に伸びていくタブの帯をやめて、画面の左に縦のレールを置き、Gmail、Slack、Notionといった毎日使うサービスをそのレールの項目として常駐させる。ページを訪れる道具から、アプリを開きっぱなしにする道具へ、前提を移した作りになっている。

公表されていた機能を並べると、サイドバーへのアプリ常駐、セッション、ワークスペース(有料でベータ扱い)、画面を左右に割る分割表示、同じサービスの複数アカウント、横断検索、広告とトラッカーの遮断、そして使っていないタブを推測して自動で眠らせるタブ休止があった。対応OSはmacOS、Windows、Linuxの3つ。Chrome拡張機能が動き、検索エンジンにBrave、Qwant、Private.shなどを選べる設定も持っていた。

タブの帯をやめるという発想がどこから来たのか

この作りを理解するには、ブラウザのタブがもともと何のために作られたかを思い出すとよい。タブは、短い時間だけ開いて読んで閉じるページを、窓を増やさずに並べるための器として広まった。1回の訪問が数分で終わる前提なので、横一列に並べて、終わったら閉じる形で足りていた。

ところが仕事で開くものの多くは、閉じない。メールもチャットも進行管理も、朝から晩まで同じ場所に置いておきたい常駐物になる。常駐物と通りすがりのページが同じ帯に混ざると、帯の幅は有限なので、1枚あたりの表示が削られ、最後には見出しの文字が消えてファビコンだけが残る。タブが40枚を超えたあたりから目的のものを探せなくなるのは、記憶力の問題ではなく器の設計の問題にあたる。

Sidekickが左のレールを作ったのは、この2種類を物理的に別の場所へ分けるためだった。常駐物はレールに置いて位置を固定し、通りすがりのページは従来どおり帯に流す。同じ考え方はChromeのタブグループやプロファイルにもあるが、そちらは分けたものが同じ帯や同じ窓の中に居続ける。レールという別の面を作った点が、この分野の製品を単なるタブ拡張と分けていた部分になる。

もう1つ、常駐を前提にしたことで必要になったのがメモリ対策だった。10個のWebアプリを一日中開いたままにすると、それぞれが描画とスクリプトを抱え続ける。使っていないタブを推測して眠らせるタブ休止は、常駐という前提から逆算して置かれた機能で、機能表の1行というより設計上の帳尻合わせに近い。

セッションとワークスペースは何が違ったのか

この製品の説明でいちばん誤解されやすかったのが、この2つの語の関係だ。名前が似ているうえ、片方は無料、片方は有料の線の向こうにあった。

セッションは、作業中のタブの束を丸ごと保存して呼び戻す仕組みにあたる。調べものをしていた15枚のタブを1つの名前で畳み、翌日に同じ並びで開き直す。切り替えても、サイドバーに常駐させたアプリのほうは閉じられない。音楽は鳴り続け、書きかけのメッセージも消えない。ここが「タブを閉じずに片付ける」という体験の中心だった。

ワークスペースは、常駐しているアプリの側を文脈ごとに切り替える仕組みになる。仕事のGmailと個人のGmailを別の入れ物に入れて、両方を同時にログインしたまま持つ。つまりセッションは調べものの束、ワークスペースは身分の束で、扱っている対象がそもそも違う。無料の範囲で触れるのはセッションのほうが中心で、身分を分ける側の機能は有料の線の向こうにあった。この線の引き方は製品ごとに違い、無料でどこまで身分を分けられるかは、いま同種の製品を選ぶときにも最初に見る行になる。アプリごとに独立したワークスペースという考え方そのものを整理したワークスペースのページでは、この入れ物の仕組みを機能名ではなくCookieの分離として説明している。

評価が分かれていた場所

公開されているレビューを読むと、褒める側と困っている側の論点がきれいに分かれている。褒める側は、タブが散らかる状態が収まること、案件をいくつも並行して抱える人にとって切り替えの手数が減ること、メモリの使用量が下がることを挙げていた。困っている側が挙げていたのは、不具合の多さ、一部のサイトや拡張機能が動かないこと、CPUが跳ねる場面があること、覚えることが多いこと、そして価格と、基本と感じる機能が有料の線の向こうにあることだった。

論点をもう少し細かく見ると、不満の中身は3種類に分けられる。1つ目は互換性で、Chromiumの外側を作り替えた結果、一部のサイトが想定どおりに動かない場面があった。2つ目は動作の重さで、常駐を前提にした作りが裏目に出てCPUの使用率が跳ねる報告が出ていた。3つ目は線の引き方で、同じサービスの複数アカウントという、この種類の道具を探す動機そのものにあたる機能が有料の側にあったことへの反応だった。

3つ目は評価というより設計の判断にあたる。無料でどこまで開放するかは各社が事業として決める線であり、無料の範囲が狭いこと自体は欠陥ではない。ただし、検索して調べ始めた動機が「2つ目のGmailを開きたい」だった人にとっては、初日から有料の判断を迫られることを意味する。無料版を試して判断する、という手順が成り立たない構成になっていた点は、選ぶ側が知っておくと時間を節約できる。

この分かれ方自体は、この分野の製品に共通して起きる。Chromiumの外側を作り替える以上、ブラウザ本体の更新に追随し続ける必要があり、その手間が製品の寿命と直結する。個人や小さなチームが作っている製品ほど、機能の面白さと継続の危うさが同居することになる。実際にこの数年で、同じ分野の製品が買収されたり、無料の範囲が狭くなったりする動きは何度か起きている。

買収のあとに何が引き継がれ、何が引き継がれなかったか

引き継がれたのは人であって、製品ではなかった。開発していたチームはPerplexityに加わり、そこで作られたCometが2025年10月から世界向けに無料で配られている。ただしCometが中心に置いているのは、AIアシスタントに指示を出して複数のサイトをまたぐ作業を代行させる体験で、タブの帯を縦のレールに置き換えるという設計ではない。名前の連続性はあっても、使う人の手の動きは別のものになる。

利用者の側から見て残らなかったものは、大きく2つある。1つは、作り込んだ設定そのもの。もう1つは、その設定を作るのに費やした時間だ。ブックマークやパスワードは書き出して他のブラウザへ運べるが、どのアプリをどの入れ物に入れるかという設計は、製品ごとに書き直しになる。ブラウザの移行そのものは一般的な手続きとして用意されていて、Chromeの案内も次のように書いている。

設定や、お気に入りのウェブサイトのブックマークを保持したまま、ブラウザを移行できます。 出典: support.google.com

運べるのはここまでで、身分の分け方は運べない。この差が、乗り換えにかかる本当の時間になる。

似た働き方を続けるために見る行

同じ分野の製品を並べるとき、機能の数より先に見たい列がある。いま動いているかどうか、どのOSに出ているか、そして設定がどこに置かれるか、の3つだ。

製品 2026年9月時点の状態 対応OS
Sidekick 提供終了。公式アドレスは別製品へ転送 終了前はmacOS、Windows、Linux
Wavebox 提供中 macOS、Windows、Linux
Shift 提供中 macOS、Windows
Rambox 提供中 macOS、Windows、Linux
Ferdium 提供中(Apache-2.0のオープンソース) macOS、Windows、Linux、FreeBSD

この表で目を留めたいのは最下行になる。提供元の会社が判断を変えても、ソースが公開されていれば手元の版は動き続ける。無料で使える選択肢との違いを事実の並びで整理したFerdiumとの比較と、Sidekickが持っていた縦のレールという考え方を引き継いだ製品との違いをまとめたSidekickとの比較は、この列の読み方を具体的な行に落としている。

道具が消える前提で設計を組み直す

Sidekickの話から取り出せる実務的な結論は、機能の選び方ではなく、設計の持ち方にある。同時にログインしたままにしておきたい識別子の一覧、たとえば仕事のGmail、個人のGmail、取引先のGoogle Workspace、メールアドレスの違う2つのSlackといった並びを、道具の外側に書き出して持っておく。これが本当の要件で、道具が変わっても書き直さずに済む唯一の資産になる。

そのうえで、候補になる製品ごとに、無料でいくつの身分を分けられるか、設定の書き出しができるか、提供元が変わったときに手元の版が動き続けるかを確かめる。どのサービスをアプリとして常駐させられるかは製品によって幅があるため、使えるアプリのような一覧で、自分が毎日開くサービスが並んでいるかを先に見ておくと、試す前に候補が絞れる。

タブが100枚に届く状態を直したいという動機は、道具が入れ替わっても変わらない。変えられるのは、その動機を特定の製品に預けきってしまうか、自分の手元に要件として残しておくかの違いだけになる。

よくある質問

Sidekickブラウザは今でもダウンロードできますか?

2026年9月時点では入手経路が残っていません。公式アドレスは別製品へ恒久的に転送されており、配布ページ自体が存在しない状態です。第三者のサイトに古いインストーラが置かれている場合がありますが、更新が止まったブラウザは既知の脆弱性が修正されないため、常用する道具としては勧められません。

なぜ提供が終わったのですか?

開発チームが2025年5月にPerplexityへ買収され、その後2025年8月3日に本体の提供が終わりました。買収されたのはチームであり、製品はそのまま引き継がれていません。現在の転送先であるCometは、AIアシスタントに作業を指示する形の別製品として公開されています。

Cometに乗り換えれば同じことができますか?

同じではありません。Cometは会話で指示を出して複数のサイトをまたぐ操作を代行させる設計で、Sidekickの中心だった縦のレールにアプリを常駐させる使い方とは目的が異なります。タブの散らかりを構造で直したい場合は、同じ分野の他の製品を並べて比べるほうが近道です。

有料プランはいくらでしたか?

終了前に公表されていた内容では、無料プランがサイドバーのアプリ5つ、アプリ合計10個、セッション2つまでで、Proが月12ドルでした。Proでは複数ワークスペース、同じサービスの複数アカウント、分割表示、無制限のセッションなどが使えました。現在は契約そのものができません。

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