Arcの代わりとは|何ができて、どこで詰まるか
Arcの代わりを探し始めた人が最初にぶつかるのは、候補が多すぎることではない。「代わり」という言葉が、まったく別の3種類の道具を同時に指してしまっていることだ。縦に並ぶタブの見た目を取り戻したいのか、仕事用と個人用のログインを分けたいのか、それとも1日に何十回も繰り返している画面の切り替えそのものを短くしたいのか。この3つは似た顔をしているが、解く問題が違う。ここでは、候補を型に分けたうえで、それぞれが何をして何をしないのか、そしてどこで止まるのかを、公開されている事実だけで並べる。
「Arcの代わり」という言葉は、3つの別々の話が混ざっている
同じ検索語で探している人の頭の中を開いてみると、求めているものは大きく3つに割れる。
- 型A、見た目と操作感の代わり。サイドバーに縦に並ぶタブ、名前と色の付いた区切り、キーボードだけで移動できる速さ。Chromiumをもとにしたブラウザの多くがこの領域にいる
- 型B、置き場所の代わり。Gmail、Slack、Notion、カレンダーといったWebアプリを、タブではなく1つずつ独立した枠に入れて常駐させる道具。アプリ集約ブラウザと呼ばれる種類がこれにあたる
- 型C、身分の分離だけの代わり。追加のソフトを入れず、標準のブラウザが持つプロファイル機能で、仕事用と個人用のCookieを分ける
この3つは併存できる。型Cで分けたうえで型Aを使う人もいるし、調べ物は普通のブラウザ、常駐する仕事道具は型B、と役割で割っている人もいる。詰まるのは、自分が欲しいのがどの型か決めないまま、評判のよい製品を順に試してしまったときだ。型Aの製品をいくら入れ替えても、ログインが混ざる悩みは消えない。
Arcがいま置かれている状態を、事実だけで確かめる
代わりを考える理由の多くは、Arcの側の事情にある。憶測ではなく、公開されている記述だけを拾う。
まず、Arc自身の配布ページに注意書きが出ている。Chromiumの更新は取り込むが、それ以上のことはしないという趣旨の記載だ。
FYI: Arc receives Chromium updates only. For active security patches and enterprise-grade protection, download Dia instead. 出典: arc.net
次に、2025年5月26日に公開された利用者向けの書簡で、開発元は新機能の追加を止めたことを明言している。同じ文章の中で、Chromiumの更新と脆弱性の修正は続けていること、Arcの土台になっている内製の開発基盤が新製品と共通であるためオープンソース化は簡単ではないこと、Arcを終了させるつもりはないことも書かれている。
そして2025年9月4日、Atlassianが開発元を買収する契約に合意したと発表した。発表文の主題は新しいAIブラウザのほうであり、Arcについての新しい約束は述べられていない。
読み取れることは2つだ。1つ、Arcは動かなくなったわけではない。2つ、これから機能が増える前提で使い続ける計画は立てにくい。2026年の時点で代わりを検討するのは、壊れたからではなく、増えないからという理由になる。
3つの型は、それぞれ何をして何をしないのか
| 型 | 分けているもの | 得意なこと | しないこと |
|---|---|---|---|
| 型A 縦タブ型 | 見え方 | タブの整理、キーボード操作、視界を減らす | 同じサービスの複数アカウントを同時に保つ |
| 型B アプリ集約型 | アプリの置き場所とセッション | 常駐するWebアプリの往復、通知の受け取り、アカウントの並列 | 調べ物のための一時的なタブを大量に開く使い方 |
| 型C プロファイル型 | Cookieの入れ物 | ログインの完全な分離、追加費用ゼロ | 切り替えの速さ、1画面での一覧性 |
表の右端が重要になる。型Aは見え方を整えるので、画面はすぐ静かになる。ただし、同じプロファイルの中でいくら区画を分けても、Cookieは共有されたままだ。仕事のGmailと個人のGmailを同時に開いたままにしたい人は、型Aだけでは要求を満たせない。
逆に型Bは、アプリ1つずつが自分のセッションを持つ設計のものが多い。同じサービスを2つ、3つ並べても互いのログインを奪わない。どの製品がどこまでできるかは実装次第なので、検討中の道具についてはワークスペースのように、区画がセッションまで分けるのかを説明しているページを先に読むのが早い。区画の説明が見た目の話で終わっている製品は、型Aだと判断してよい。
ログインが分かれるかどうかが、最初の分岐になる
判定は難しくない。いま使っている環境で、同じサービスに別アカウントで2つ同時にサインインしてみる。片方が落ちるなら、その区画はCookieを分けていない。落ちないなら分けている。この1回の試行で、候補の半分は脱落する。
分ける必要がある人にとっては、アプリごとに独立したワークスペースを持てるかどうかが、そのまま採否の条件になる。分ける必要がない人、つまりアカウントが1組しかない人にとっては、この条件は無意味で、判断材料は速さと軽さに移る。自分がどちら側かを先に決めれば、比較表を眺める時間はかなり減る。
なお、型Cはこの条件を最初から満たしている。標準のブラウザのプロファイルはCookieの入れ物そのものだからだ。費用も追加でかからない。それでも人が別の道具を探すのは、プロファイルの切り替えが窓ごとの操作になり、切り替えのたびに視線と手が止まるからだ。1日の切り替え回数が50回を超えるなら、この摩擦は無視できない大きさになる。
型ごとに、詰まる場所が違う
型Aで詰まるのは、移行そのものよりも後だ。拡張機能の対応状況、動画配信サービスの再生可否、既定ブラウザの扱い、そして数年かけて指が覚えたショートカットの置き換え。どれも致命傷ではないが、最初の数日は作業が遅くなる。
型Bで詰まるのは、使い方の想定が合わないときだ。常駐する道具を並べる設計なので、検索して読んで閉じる、という一時的なタブの大量発生には向かない。また、どのサービスが正式に対応しているかで体験が変わる。検討する製品の使えるアプリの一覧を先に開いて、毎日開くサービスが入っているかを確かめるのが確実だ。入っていない場合でも独自に追加できる製品はあるが、通知の扱いが標準対応のものより弱くなることがある。
型Cで詰まるのは、数が増えたときだ。プロファイルが2つなら快適に回る。5つを超えたあたりから、どの窓がどの身分なのかが分からなくなり、間違ったアカウントで送信する事故が起きる。窓の見分けを色や名前で付けられるかどうかが、実用の限界を決める。
調べ物と常駐を、同じ道具に載せないほうがうまくいく
代わりを1つに決めようとすると、判断が難しくなる。ブラウザでやっていることは、性質の違う2種類が混ざっているからだ。
1つは常駐する作業。メール、チャット、タスク管理、カレンダー。開きっぱなしで、1日に何度も戻ってくる。閉じることはほとんどない。もう1つは一時的な調べ物。検索して、読んで、必要なら保存して、閉じる。1日に開くタブの数でいえば、こちらのほうが圧倒的に多い。
この2つを1つの道具に載せると、どちらかが窮屈になる。常駐向けに設計された道具に調べ物を流し込めば画面が散らかり、調べ物向けの普通のブラウザに常駐を置けば、いつも通りタブの海に沈む。Arcが多くの人に好まれたのは、ピン留めと通常タブという形で、この2種類を1つの窓の中で扱い分けていたからだ。
代わりを考えるときも、同じ分け方を保てばよい。常駐する8個前後のアプリを置く場所と、調べ物のための場所を、別の道具に分ける。1つに統一しなければならない理由はない。役割で分けたほうが、それぞれの道具の得意な部分だけを使える。実際、常駐の側に何を置けるかは製品ごとのできることの記述で確かめられるので、調べ物の側は使い慣れたものを残したまま、常駐の側だけを入れ替える移行が最も摩擦が小さい。
移る前に、自分の使い方を数えておく
道具を試す前に、紙でもメモアプリでもいいので次の4つを数える。数えるだけで、候補は自然に絞れる。
- 毎日必ず開くWebアプリの数。10個を超えるなら、無料枠の上限が判断材料になる
- 同じサービスで使っているアカウントの数。2つ以上あるなら、セッションを分けられる型が必須になる
- 手放せない拡張機能の数と名前。ここが多い人は、Chromiumをもとにした製品に候補が限られる
- 1日のうち、画面を切り替えるために手が止まる回数。感覚でよい
この4つが出ていれば、比較記事を10本読むより速く決まる。逆に数えないまま試すと、どの製品を試しても「悪くはないが決め手がない」という感想に落ち着き、結局Arcに戻ることになる。
数えたあとにもう1つやっておくと効くのが、いま使っているショートカットの書き出しだ。タブの切り替え、区画の移動、サイドバーの開閉、検索欄への移動。この4種類について、どのキーを押しているかを書き出す。新しい道具で同じ操作に別のキーが割り当てられていると、最初の数日は思考より先に指が動いて誤操作になる。多くの製品はキーの割り当てを変更できるので、移行の初日に前と同じ配置へ寄せておくと、慣れるまでの期間が半分になる。ここを放置したまま「使いにくい」と判断してしまう例が少なくない。
公開されている数字が示す、代わりの選び方
開発元が公開した前述の書簡には、利用実態の数字が載っている。ここが代わり選びに直接効く。
Only 5.52% of DAUs use more than one Space regularly. Only 4.17% use Live Folders (including GitHub Live Folders). 出典: browsercompany.substack.com
日常的に複数の区画を使っていた人は、全体の5.52%にとどまる。つまり大多数の利用者にとって、Arcの価値は区画の機能ではなく、静かな画面と速い操作にあった。ここから導ける判断は素直だ。区画を1つしか使っていなかった人が、区画の数を売りにする製品を選んでも、感じる違いは小さい。その人が本当に置き換えたいのは見え方であり、型Aで足りる。
一方、残りの数%に自分が入っているなら、話は逆になる。区画ごとにログインが分かれ、常駐したまま通知を受け取れることが要件になり、型Bの領域に入る。この層は費用の検討が必要になるので、候補の料金の構成と、無料枠がアプリ数で切られているのか機能で切られているのかを先に見ておくと無駄がない。個々の製品の違いを詰めたい場合は、Waveboxとの比較やFerdiumとの比較のように、1対1で並べた資料のほうが、総合ランキングより判断に使える。
最後に、どの型を選んでも共通して効くことを1つ。移行は全部を一度に動かさないほうがうまくいく。毎日開くアプリのうち3つだけを新しい道具に載せ、1週間そのまま使う。残りは元の環境に置いておく。1週間後に戻っていなければ、その道具は合っている。戻っていれば、合っていなかったのは道具ではなく、型の選び方だったと分かる。この順序なら、合わなかったときの撤退も、3つのアプリを元の場所に戻すだけで済む。全部を一度に動かした場合と違って、失敗の代償がほとんど発生しない。
よくある質問
Arcはもう使えなくなるのですか?
配布ページには、Chromiumの更新を取り込むという記載があり、2025年5月の利用者向け書簡でも脆弱性の修正を続けていると説明されています。停止の告知は出ていません。ただし新機能の追加は止まっているため、今後増える機能を前提にした使い方は計画しにくい状態です。
代わりを選ぶとき、最初に確かめることは何ですか?
同じサービスに別のアカウントで2つ同時にサインインできるかどうかです。片方が落ちる製品は、区画を分けていてもCookieは共有しています。アカウントを分けたい人にとっては、ここが通らない時点で候補から外れます。
無料のまま使える選択肢はありますか?
標準のブラウザのプロファイル機能を使えば、追加費用なしでログインは分けられます。アプリ集約型の製品にも無料枠を持つものがあり、多くはアプリ数や同時に開ける数で上限が設けられています。毎日開くアプリの数を先に数えておくと、その上限で足りるか判断できます。
拡張機能をたくさん使っていても移れますか?
Chromiumをもとにした製品であれば、同じ拡張機能が動くことが多いです。ただし製品によっては無料枠で使える拡張機能の数に制限があります。手放せない拡張機能の名前を先に書き出し、候補の製品が対応しているかを確かめてから移ってください。