Arcの代わりの手順|先に決めておく3つの境目
Arcの代わりを探し始めた人の多くは、まず候補のブラウザを並べるところから入る。ところが移行が途中で止まるのは、候補の選び方を間違えたからではなく、着手する順番を間違えたからであることがほとんどになる。Arcが1つのアプリの中で同時に担っていた役割は4つあり、その4つは別々の仕組みで置き換わる。この記事は、何をどの順番で決めれば途中で戻らずに済むかを扱う。
Arcが「終わっていない」ことが判断を先延ばしにさせる
いま困りごとを分かりにくくしているのは、Arcが使えなくなっていないという事実になる。締め切りがないので、決めなくても今日は何も起きない。ただし公式サイトの案内は、状態をかなりはっきり書いている。
FYI: Arc receives Chromium updates only. For active security patches and enterprise-grade protection, download Dia instead. 出典: arc.net
Arcが受け取るのはChromiumの更新だけで、積極的なセキュリティ対応と法人向けの保護が要るならDiaを入れてほしい、という趣旨になる。同じページからmacOS版とWindows版のダウンロードは今も提供されており、Spaces・Profiles・Split View・Themesといった機能の紹介もそのまま残っている。つまり公式の説明は「使えなくなる」ではなく「機能の開発はここまでで、更新の中身が変わった」である。
背景の出来事は2つある。1つ目は、開発元であるThe Browser Companyが2025年5月27日に、Arcの積極的な機能開発を止めてDiaに軸足を移すと表明したこと。2つ目は、2025年9月4日にAtlassianが The Browser Company の買収を発表し、その告知の中で今後の主題として名前が挙がっているのがDiaであることになる。
この2つから読めるのは、期限ではなく傾きになる。明日壊れるわけではないが、拡張機能の互換性・macOSの新版への追随・新しいWeb標準への対応といった、時間が経つほど効いてくる部分に修正が入る見込みは薄くなる。だから正しい問いは「いつ捨てるか」ではなく「どこから移すか」になる。
移す前に、Arcが実際にやっていたことを分解する
候補を並べる前に、自分のArcが何をしていたかを書き出す作業が要る。ここを飛ばすと、必要のない機能を基準に道具を選んでしまう。Arcが1つの窓の中で同時にこなしていたのは、性質の違う次の4つになる。
- ログインの分離(Profiles)。仕事用のGoogleアカウントと個人のGoogleアカウントを、Cookieのレベルで別々に保つ働き
- 作業の区切り(Spaces)。同じログインのまま、案件ごと・曜日ごとにタブの束を切り替える働き
- 画面の使い方(Split View、サイドバー)。2つ以上のページを同時に見る働き
- タブの寿命の管理(自動アーカイブ)。放置したタブが一定時間で消える働き
この4つは、移行先では同じ1つの機能にまとまっていない。ログインの分離はブラウザのプロファイルかセッション分離の仕組みが担当し、作業の区切りはワークスペースやタブグループが担当し、画面の使い方はOS側のウィンドウ操作でも代替できる。タブの寿命の管理にいたっては、そもそも必要なくなる場合がある。
書き出してみると、実際に毎日使っていたのは4つのうち2つ程度であることが多い。残りは「あると便利だった」であって、移行先を選ぶ条件にするほどの重みはない。ここで重みを付け違えると、いちばん使っていた機能が弱い製品を、使っていなかった機能の見栄えで選ぶことになる。
順番1: 境目を決める。道具を選ぶのはその後
最初に決めるのは、自分の1日を何で区切っているかになる。区切り方は大きく2つあり、どちらを選ぶかで必要な道具の種類が変わる。
1つ目はアカウントで区切る考え方になる。勤務先のアカウント、取引先から発行されたアカウント、個人のアカウント。この境目は自分の都合で動かせない。相手先のセキュリティ設定や退職の手続きに縛られるため、境目を越えて混ぜること自体が問題になる。
2つ目は仕事の内容で区切る考え方になる。同じアカウントのまま、午前は執筆、午後は打ち合わせ、夜は調べもの、というふうに切り替える。この境目は自分で自由に決められるし、明日変えてもよい。
重要なのは、この2つが要求する仕組みがまったく違う点になる。アカウントで区切るには、Cookieとストレージが本当に分かれている必要がある。仕事の内容で区切るなら、見た目の切り替えだけで足りる。多くの人が移行でつまずくのは、アカウントの境目が必要なのに、見た目の切り替えしか持たない道具を選んでしまうからになる。
どちらが主かは、次の質問で判定できる。「同じサービスに、同時に2つ以上のアカウントでログインしている状態が要るか」。要るならアカウントが主になり、要らないなら内容が主になる。前者の場合、アプリごとに独立したワークスペースを持つ設計かどうかが選定の第一条件になる。この考え方の違いは製品ごとに大きく、ワークスペースでは区切りの単位そのものをどう置いているかを説明している。
順番2: ログインの置き場所から移す
境目が決まったら、次に動かすのはタブではなくログインになる。ここを後回しにすると、移行先で作業を始めた直後に、必要なアカウントに入れないという形で止まる。
ログインはタブではなくブラウザのプロファイルに属している。Chromeのヘルプはこの点をはっきり書いている。
プロフィールを使用すると、ブックマーク、履歴、パスワード、その他の設定など、Chromeのすべての情報を分けて管理できます。 出典: support.google.com
同じページには、端末を持っている人は他のプロファイルに切り替えられる、という注意も併記されている。つまりプロファイルは整理の仕組みであって、他人から守る仕組みではない。共有のMacで使う場合は、ブラウザのプロファイルではなくmacOSのユーザーアカウントで分けるほうが筋が通る。
移す順番としては、まず使用頻度の高い順に3つのアカウントを新しい環境に入れ、2段階認証の確認までその場で通してしまうのが安全になる。認証アプリの登録やバックアップコードの確認は、移行の当日にまとめてやると詰まりにくい。数週間後に急いでいるときに初めて気づくと、その日の予定が丸ごと止まる。
Googleのアカウントを複数使っている場合は、同時ログイン時の既定アカウントの扱いを先に把握しておく価値がある。既定のアカウントは多くの場合いちばん最初にログインしたもので、複数にログインしている状態では、ウェブとアプリのアクティビティや広告のカスタマイズといった設定が既定のアカウントのものになる場合があると案内されている。順番によって挙動が変わる以上、移行先で「最初にどれに入るか」は無視できない設計事項になる。
順番3: 外から来たリンクの行き先を決める
3番目に決めるのは、ブラウザの外から飛んでくるリンクの扱いになる。メールアプリ、チャットアプリ、カレンダーの通知、PDFの中のリンク。これらを押したときにどの窓とどのログインが応答するかは、移行後の使い勝手をいちばん左右する。
Arcを使っていた人は、この部分を無意識にArcに任せていたことが多い。既定のブラウザがArc1つで、その中で必要なProfileが呼ばれていたからになる。移行先が複数のアプリやプロファイルに分かれる設計だと、この前提が崩れる。取引先のドキュメントのリンクを押したら個人のアカウントで開いた、という事故はここで起きる。
決めておく項目は3つになる。
- macOSの既定ブラウザをどれにするか
- 仕事のリンクが来る経路(メールアプリ、チャットアプリ)ごとに、どこで開いてほしいか
- 意図と違う場所で開いたとき、どうやって正しい側に移すか
3つ目は特に見落とされる。開き直す手順が決まっていないと、毎回URLをコピーして正しい窓に貼り直す作業が発生し、それが1日に何度も起きる。この経路の整理は、どのアプリを窓として独立させるかの設計と直結するため、できることで説明されている、サービスごとに窓とセッションを固定する考え方が判断材料になる。
順番4: 通知は最後に戻す
最後が通知になる。ここを先にやると、移行の途中で古い環境と新しい環境の両方から同じ通知が届き、どちらを見ているのか分からなくなる。
手順としては、移行の作業を始める前にArc側の通知をいったん全部止め、新しい環境が安定してから必要なものだけを開ける。開ける順番は、返事が遅れると人に迷惑がかかるものからになる。チャットの個別メッセージ、カレンダーの開始直前の知らせ、この2つで足りることが多い。メールの新着通知とタスク管理の更新通知は、開けないまま1週間過ごしてみると、実は要らなかったと分かる場合がある。
通知を最後に回すもう1つの理由は、通知の設定がブラウザのプロファイル単位で保存される点になる。プロファイルを作り直すと通知の許可もやり直しになるため、プロファイルの構成が固まる前に設定すると二度手間になる。
順番を間違えるとどこで詰まるか
実際に起きる詰まり方は、間違えた順番ごとに形が決まっている。
道具を先に選んだ場合、境目の要件と合わないことに1週間ほど使ってから気づく。アカウントの分離が必要だったのに見た目の切り替えしか持たない製品を入れると、同じサービスに2つのアカウントで同時に入れず、結局ログインし直しの毎日に戻る。
タブを先に移した場合、ブックマークとタブの束は移ったのに、各サービスへのログインが通らない状態になる。移行の初日に2段階認証で止まると、その日は旧環境に戻って作業することになり、二重運用が長引く。
リンクの行き先を後回しにした場合、移行そのものは終わっているのに、毎日の細かい取りこぼしが残る。リンクを押すたびに間違った窓が開き、そのたびに手で直す。この作業は1回あたり数秒だが、1日に何度も起きるうえ、そのたびに注意が途切れる。
通知を先に開けた場合、新旧の環境から二重に届く。同じメッセージに2回反応してしまうことが続くと、通知そのものを信用しなくなり、結果として必要な連絡を取りこぼす。
移行中にArcを残す期間の決め方
Arcをいつ消すかを先に決める必要はない。むしろ、決めるべきなのは「何が起きたら消してよいか」の条件になる。
条件は3つで足りる。1つ目は、新しい環境で必要なアカウント全部に入れて、2段階認証まで通っていること。2つ目は、外から来たリンクが意図した場所で開くようになっていること。3つ目は、直近2週間でArcを開いた回数を数えて、その理由を説明できること。3つ目が重要で、開いた理由が「ブックマークがそこにしかないから」であれば、移すべきものが残っているという意味になる。「この機能が新しい環境にないから」であれば、道具の選び直しが要るという意味になる。
なお、消す前にブックマークとパスワードの書き出しは済ませておく。書き出したファイルは暗号化されていない形式になることが多いため、取り込みが終わったら消す前提で扱う。
公開されている料金と提供状況から読めること
移行先の候補は、公開されている情報だけでもかなり性格が分かれる。2026年9月時点で各社の公式ページに出ている内容を並べると、次のようになる。
| 製品 | 無料の範囲 | 有料 | 確認できる状況 |
|---|---|---|---|
| Wavebox | Basic(2グループ・各2アプリ・拡張1つ) | Pro 月8.33ドル(年払い)、Teams 1人あたり月12.50ドル | 7日間の無料試用、クレジットカード不要 |
| Shift | Free(5スペース・1スペース10アプリ) | Advanced 年199.99ドル | tryshift.com は shift.com へ301転送 |
| Rambox | Basic(アプリ数無制限、1アプリ2インスタンスまで) | Pro 月7ドル/年70ドル、Teams 1人あたり月14ドル(5人から) | 新規は30日間のPro試用 |
| Ferdium | コミュニティ製で無料、アカウントなしでも利用可 | なし | 公式サイトで配布 |
ここから読めることが2つある。1つは、無料の範囲の切り方が製品ごとに根本的に違う点になる。アプリの数で切る設計と、束の数で切る設計と、同じアプリを何個開けるかで切る設計が混在している。自分が「同じサービスの複数アカウント」を必要としているなら、効いてくるのは3つ目の軸になる。各製品の設計の違いはWaveboxとの比較とRamboxとの比較で、どこに線が引かれているかを機能ごとに並べてある。
もう1つは、この分野の製品は提供状況そのものが動く点になる。Sidekickは2025年8月3日に提供を終了しており、meetsidekick.com は現在 comet.perplexity.ai へ転送される。Shiftの旧ドメイン tryshift.com も shift.com への転送になっている。移行先を決める前に、料金だけでなく、提供が続いているか・運営が変わっていないか・受付が止まっていないかを、公式ページを開いて確かめる価値がある。この確認の観点はSidekickとの比較にも整理してある。
最後に、移行の判断に効くのは料金の差ではないという点を書いておく。月7ドルと月8.33ドルの差が意味を持つ場面は少ない。効くのは、自分が必要としている境目の種類を、その製品が構造として持っているかどうかになる。だから順番は、境目・ログイン・リンクの行き先・通知であり、料金の比較はその後に置く。
よくある質問
Arcはいつ使えなくなりますか?
公式サイトに終了の期日は出ていない。2026年9月時点でmacOS版とWindows版のダウンロードは提供されており、案内はChromiumの更新のみを受け取る状態だと書かれている。期日ではなく、拡張機能やOSの新版への追随が弱まる形で、時間をかけて不便が増えていくと考えるのが実際に近い。
移行はどこから手を付けるのがよいですか?
道具選びではなく、境目を決めるところから始める。同じサービスに2つ以上のアカウントで同時にログインする必要があるかどうかで、必要な仕組みが変わる。境目が決まったらログインを移し、次に外から来るリンクの行き先を決め、通知は最後に戻す。
ブラウザのプロファイルを分ければ安全に分けられますか?
整理としては有効だが、他人から守る仕組みではない。Chromeのヘルプには、端末を持っている人は他のプロファイルに切り替えられると書かれている。1台のMacを複数の人が使う場合は、ブラウザのプロファイルではなくmacOSのユーザーアカウントで分けるのが筋になる。
移行先は無料のものだけで足りますか?
必要な境目の種類によって変わる。同じサービスを複数アカウントで同時に開く必要があるなら、その部分が無料の範囲に入っているかを公式の料金ページで確かめる。無料の範囲の切り方は製品ごとに違い、アプリの数で切る設計と、同じアプリを何個開けるかで切る設計が混在している。