ブラウザ複数アカウントを1枚の窓で保つ|4つの分け方と限界
やりたいことは単純だ。Googleアカウントを2つ、メールアドレスの違うSlackを2つ、会社のNotionと個人のNotion。これを全部、どれからもログアウトせずに、1つのブラウザで同時に開いておきたい。ブラウザ複数アカウントの対応をうたっていない製品はほとんどない。ただし、対応の中身はどれも少しずつ違う。違いが表に出るのは、共有されたドキュメントが取引先の前で別のアカウントとして開いた瞬間だ。この記事では、それぞれのやり方が何をどう区切っているのか、どこで崩れるのか、そしてサービス側の事情でどう答えが変わるのかを順に見ていく。
「1つのブラウザで複数アカウント」には2つの意味がある
同じ言葉で語られているが、詰まっている場所は2種類に分かれる。
1つ目は、同じサービスに2重でサインインしていたいという話だ。Gmailの受信箱を2つ、Slackのワークスペースを2つ、別アカウントのNotionを2つ。ここで邪魔をしているのは技術的な事情で、ログイン状態はドメインごとのCookieとして保存されるため、1つの保管場所は原則1つの身元しか持てない。サービス側が複数を持てる仕組みを別途作っていない限り、これは動かない。
2つ目は、いくつものサービスといくつもの身元を、どれがどれか見失わずに開いておきたいという話だ。ここでは技術的には何も壊れていない。邪魔をしているのは注意力のほうで、正しく分離された40個のタブは、やはり40個のタブでしかない。
ネット上の解説はほぼ全部が1つ目に答えていて、2つ目には触れない。だから設定としては完璧なのに使い心地が悪い、という状態が起きる。自分の1日でコストになっているのがどちらなのかを見極めることが、この判断のほぼすべてになる。
ブラウザが2つのセッションを保つ4つのやり方
| やり方 | 分かれるもの | 共有されたままのもの | 実際のコスト |
|---|---|---|---|
| サービス側のマルチログイン | サービス内のアカウント番号 | Cookie・履歴・拡張機能 | 外から届いたリンクが別アカウントで開く |
| Firefoxのコンテナ | コンテナごとのCookieと保存領域 | 窓・履歴・拡張機能・ブックマーク | Firefox限定、リンクの振り分け設定が要る |
| ブラウザのプロフィール | Cookie・履歴・拡張機能・設定 | 何も共有されない | 身元を変えるたびに窓を移る |
| プライベートウィンドウ | 閉じるまでの間はすべて | 開いている窓同士はセッションを共有 | 毎回ログインし直す |
サービス側のマルチログインは、Googleが右上のアイコンから2つ目を追加したときに動いている仕組みだ。両方サインインしたまま保たれ、いま見ているアカウントはURLの中に番号として書かれる。1つ目が /u/0/、2つ目が /u/1/ になる。手軽さは一番で、区切りとしては一番浅い。Cookieの保管場所はそもそも分けていないからだ。
FirefoxのMulti-Account Containersは、窓を分けずにCookieの保管場所だけを分ける、主流の中では唯一の機能だ。
Multi-Account Containers lets you keep parts of your online life separated into color-coded tabs. Cookies are separated by container, allowing you to use the web with multiple accounts. 出典: support.mozilla.org
プロフィールは、Chrome・Edge・Brave・Vivaldiが持っている仕組みで、こちらは全部を分ける。2つのプロフィールは、アプリを共有しているだけの別々のブラウザだと考えていい。分離が完全なので、社内のセキュリティ審査で通りやすいのもこれになる。
プライベートウィンドウは5つ目の選択肢に見えて、選択肢ではない。開いているプライベートウィンドウ同士は1つのセッションを共有するので、2枚目に別アカウントを入れることはできず、最後の1枚を閉じた時点で全部捨てられる。
それぞれ、どこで崩れるか
マルチログインが崩れるのはブラウザの外側との境目だ。Slackのメッセージ、カレンダーの招待、メールの中のURL。これらにはアカウント番号が付いていないので、/u/0/ の位置にいるアカウントで開かれる。開きたかったほうにしか権限がなければ、権限エラーになって手で切り替えることになる。共有リンクを受け取る仕事なら週に何十回も起きる現象で、マルチログインが見捨てられる理由のほとんどがこれだ。
コンテナが崩れるのは分離ではなく振り分けのほうだ。分離そのものは正しく効いている。問題は、Firefoxの外でクリックしたリンクや、どのコンテナにも割り当てていないタブから開いたリンクが、既定のコンテナで開いてしまう点にある。「このサイトは常にこのコンテナで開く」という規則でよくある場面は潰せるが、同じドメインに2つのアカウントがある場合は原理的に決められない。そしてそれこそがコンテナを入れた理由だった、ということが起きる。
プロフィールが崩れるのは人間側だ。技術的には何も共有されていないし、それが利点でもある。壊れるのは「どの窓が仕事でどの窓が個人か」という頭の中の地図のほうで、macOSではどのプロフィールの窓も同じアプリのアイコンにぶら下がる。見分けのつかない窓が2枚あるのは、画面共有の事故を待っているのと同じだ。プロフィールごとに名前と色とアイコンを変えるだけでかなり減るので、2つ目を作った日にやっておくといい。
サービスごとに事情が違う
すべてのWebアプリを同じものとして扱う解説は、実際に運用すると早い段階で崩れる。サービス側の設計判断が揃っていないからだ。
Googleはマルチログインに対応していて、それをURLの番号で表現している。Googleの中では快適に動き、外から届くリンクには弱い。Google内でも番号の扱いが揃っていない画面が残っていて、ドライブの共有リンクはその代表格になる。
Slackは思ったより易しい。ワークスペースごとに別のサブドメインを持ち、Cookieもそこに紐づくので、メールアドレスが違っていても1つのブラウザで同時にサインインしたままにできる。困るのはセッションではなく通知のほうで、タブに置いたままだと通知の届き方がアプリより不安定になる。
Notionは逆の設計だ。1つのNotionのログインに複数のアカウントをぶら下げてサイドバーで切り替える形なので、切り替えが製品の内側にある。完全に別のセッションとして2つ持ちたい場合は、やはりコンテナかプロフィールが要る。
Microsoft 365は、判断を迫ってくることが多い。同じブラウザのセッションで2つ目の職場アカウントにサインインすると1つ目が不安定になりやすく、プロフィールを分けるのが結局いちばん短い道になる。設計の前にサービス側の事情を確かめるべき理由がここにある。Slackには対策が要らず、Microsoftには避けられないからだ。
2つ目のプロフィールを1週間もたせる作り方
うまくいかない例のほとんどは、仕組みの選択を間違えたのではなく、移行を途中でやめている。火曜日に2つ目のプロフィールを作って、11個あるログインのうち2個だけを移した状態は、両方の悪いところが出る。探す場所が2つに増えたのに、どちらに何があるか自信が持てない。移すなら一度に全部移す。
まず、始める前にすべてのアカウントの行き先を決める。仕事は片方、個人はもう片方。判断に迷うアカウントにも例外を作らない。両方のプロフィールに存在するアカウントは、いつか必ず間違ったほうでサインインされる。そもそもその判断を毎日の作業から追い出すためにやっているので、例外を残すと目的を失う。
次に、窓の見た目を変える。プロフィールごとに名前と色とアイコンを設定する。macOSでは、いくつプロフィールを開いていてもDockのアイコンは1つのままなので、見分けの手がかりは窓そのものが持つしかない。右上のプロフィールの印だけが確実な目印になり、色を変えておけば目を凝らさずに読める。
そして、リンクがどこで開くかを決める。ここを飛ばしてプロフィールのせいにしている例が多い。メールやチャットから届いたリンクは、システムが既定としているブラウザで開く。個人用を既定にして仕事のリンクは意識的に開くのか、その逆にするのか。一度だけ決めておく価値がある。決めないままだと、外から来るリンクは毎回どちらに落ちるか分からない状態になる。
最後に拡張機能を分ける。拡張機能はプロフィール単位なので、これは面倒ではなく利点だ。個人の保管庫を開いたパスワード管理ソフトが、取引先の管理画面で動いている必要はない。拡張機能が14個ではなく4個の仕事用プロフィールは、起動も速く、漏れる情報も少ない。
ここまでやったプロフィールの組は、あとから手入れが要らない。手入れが要らなくなったかどうかが、正しく作れたかどうかの判定になる。
本当のコストは、ログインではなく切り替え
セッションが正しく分かれたあとに残るコストは、抱えているアカウントの数ではなく、1日に何回身元をまたぐかで測れる。3回しかまたがない人はほとんど損をしていないので、プロフィールを1つ足して終わりでいい。60回またぐ人が払っている請求書は、それとは別物になる。
1回の切り替えは小さく、そしてどこにも記録されない形で高い。似た窓の中から正しいものを探す。入力する前にアカウントを確かめる。その間に途切れた思考を拾い直す。高いのは最後の1つで、しかもこれはアカウントの数ではなくサービスの種類の数で増える。だから既存サービスの2アカウント目を足すより、3つ目4つ目のWebアプリを足すほうが痛い。
頻度で選び直す
ここまで来ると、扱う単位はアカウントではなく仕事の塊に移る。1つの取引先に必要な3つのアプリを束ねて、アプリごとに独立したワークスペースを与え、再起動しても並びが残り、20個の一覧を読まずに戻れる状態にする。この束ね方はワークスペースで説明している。まずは無料かつ公開されたコードで揃えたい場合の近い選択肢と、その限界はFerdiumとの比較にまとまっている。
決め方は短くまとめられる。1つのサービスの2アカウントをたまに使うだけなら、サービス側のマルチログインで足りる。リンクの行き先がずれる問題は受け入れる。複数サービスの2アカウントを毎日使っていてFirefoxを使えるなら、コンテナに振り分け規則を設定する。同じ条件でChromium系を使っているなら、2つ目のプロフィールを作り、個人のログインを一度に全部そちらへ移す。サービスも身元も多くて一日中往復しているなら、ブラウザ側の仕事はもう終わっている。残っているのは並べ方の問題で、これはセッションの分離をいくら磨いても解けない。
ブラウザ側に残す機能と、窓の中に持ってくる機能の線引きはできることに、無料のまま続けるか道具に払うかの判断材料は料金にまとめてある。まず今日やるなら、プロフィールを1つ増やして個人のログインを一度に移し、1週間そのまま働いてみることだ。それでも残る不便が、次に解くべき問題の正確な説明になる。
よくある質問
1つのブラウザで2つのGmailを同時に開いたままにできますか?
できます。方法は2つあり、確実さが違います。Googleのマルチログインは1つのプロフィールの中で両方サインインしたまま保ち、URLの /u/0/ /u/1/ で見分けます。ただし外部から届いたリンクは番号が無いため先頭のアカウントで開きます。Firefoxのコンテナか2つ目のプロフィールを使えばCookieの保管場所ごと分かれるので、この問題は起きません。
シークレットウィンドウを2つ目のアカウント用に使えますか?
一度きりの確認には使えますが、日常の運用には向きません。開いているシークレットウィンドウ同士は1つのセッションを共有するため、2枚目に別の身元を入れることはできません。最後の1枚を閉じた時点でCookieも捨てられるので、毎朝ログインし直すことになります。
Firefoxのコンテナとブラウザのプロフィールは何が違いますか?
コンテナはCookieと保存領域だけを分け、窓・履歴・拡張機能は1つのまま共有します。だから2つのアカウントをタブとして横に並べられます。プロフィールは拡張機能や履歴を含めて全部を分け、身元ごとに別の窓になります。軽いのはコンテナ、厳しく分かれるのはプロフィールで、Chromium系にあるのはプロフィールだけです。
プロフィールを増やすとMacは重くなりますか?
増やしただけでは重くなりません。メモリを使うのは開いているプロフィールの数で、閉じているものはディスクを占めるだけです。メモリに余裕がないMacでは、1枚の窓の中でタブを閉じるより、使っていないプロフィールの窓ごと閉じるほうが効きます。