chrome profile switcherの正体|Macで切り替えを速くする前に
朝から4回目のアカウント切り替えで、右上のアイコンを押し、名前を選び、新しい窓が開くのを待つ。1回あたり数秒でも、1日に何十回も繰り返せば体感は重い。chrome profile switcherという言葉で探しているなら、探している道具は拡張機能の形では存在しない。この記事では、なぜ存在しないのかという構造上の理由と、Chromeが標準で用意している経路、そして切り替えを速くしても消えないコストがどこに残るのかを順に示す。
拡張機能としてのスイッチャーが作れない理由
Chromeの拡張機能は、ブラウザ本体ではなくプロファイルの中に入る。仕事用プロファイルにパスワード管理の拡張を入れても、個人用プロファイルでは別に入れ直すまで存在しない。保存領域も、権限も、開いているタブを見る範囲も、すべてプロファイルの内側で完結する。
公開されている拡張機能のAPI一覧を見ると、この線引きがそのまま出ている。タブ、ウィンドウ、タブグループ、履歴、Cookie、ダウンロード、読み取りリストといった項目は並んでいるが、プロファイルを扱うAPIは無い。同じMacの中に他のプロファイルがいくつあるかを数える手段も、そのうちの1つを開く手段も、公開されている範囲には用意されていない。
これは実装漏れではなく、設計としてそう決まっている。Chromiumの複数プロファイルに関する設計文書には、境界の位置がはっきり書かれている。
Tabs will not be allowed to move across account boundaries. 出典: chromium.org
タブがアカウントの境界を越えられないなら、タブを操作する拡張機能も越えられない。したがって、ストアで「プロファイル切り替え」を名乗っているものは、実際には別の仕事をしている。多いのは次の2つだ。
- 特定のWebサービスの中で、ログインしているアカウントを切り替えるもの。Chromeのプロファイルとは無関係で、対象サービスの中だけで効く
- ブラウザの外に入れる小さなプログラムと組み合わせて、Chromeを起動し直すもの。ネイティブメッセージングという仕組みで拡張から外部のプログラムを呼び出せるため、動作としては成立する
後者は嘘ではない。ただし、その時点で拡張機能ではなくアプリを入れていることになる。ボタンがブラウザの中にあるだけで、実体はブラウザの外にある。
切り替えているものが、実は3つ混ざっている
「切り替えが面倒」という体感を分解すると、性質の違う3つが同じ動作に混ざっている。
- 人格の切り替え。どのアカウントとして振る舞うか。仕事のGoogleアカウントと個人のアカウント、あるいは顧客Aと顧客Bの使い分け
- 道具の切り替え。メールからチャットへ、チャットから設計書へ。アカウントは同じままで、開きたい画面だけが変わる
- 文脈の切り替え。案件Aから案件Bへ。人格も道具も同時に変わり、頭の中の前提も入れ替わる
プロファイルのスイッチャーが解けるのは1つ目だけだ。2つ目と3つ目は、切り替え先のプロファイルを開いたあとに、タブの列を目で探す作業として残る。ここを分けずに「切り替えを速くしたい」と考えている限り、どの手段を試しても半分しか効かない。
自分の切り替えがどれに偏っているかは、1日だけ観察すれば分かる。アカウントの取り違えが怖くて確認している回数が多いなら1つ目、開いた直後に目的の画面を探し始めているなら2つ目、朝に前日の続きを思い出すのに時間がかかっているなら3つ目が主因になっている。3つの比率は職種でかなり違い、複数の取引先を持つ働き方ほど1つ目と3つ目が増える。
標準の設定だけで消える手数が2つある
拡張機能を探す前に、Chrome本体の設定で消える手数が2つある。どちらも既定では有効になっていないため、知られないまま残っていることが多い。
1つ目は、起動時にプロファイルの選択画面を出す設定だ。右上のプロフィールから「Chrome プロフィールを管理」を開き、下部の「起動時に表示する」をオンにすると、Chromeを開いた瞬間に選択画面が出る。前回使っていたプロファイルにいきなり入る挙動が消えるため、朝いちばんの誤爆が減る。1日の最初の1回にしか効かないが、その1回がいちばん高くつく。
2つ目は、プロファイルごとの名前とテーマカラーだ。既定のままだと、どの窓も同じ色の同じアイコンになる。プロファイルを管理する画面から、それぞれに違うテーマカラーと分かりやすい名前を付けておくと、窓の上端の色だけで判別できる。Mission Controlで縮小されたときにページの中身は読めないが、色は残る。
なお、macOSの側にはプロファイルという概念が無い。どのプロファイルの窓も「Google Chrome」という1つのアプリの窓なので、アプリを移動するショートカットでは行き先を指定できない。同じアプリの窓を順に送るショートカットは使えるが、最近使った順に回るため、狙った窓に一発で入ることはできない。
プロファイルは分離であって、施錠ではない
もう1つ、切り替えを速くする前に知っておくべき性質がある。プロファイルはデータを分けるが、鍵はかけない。Chromeのヘルプにそのまま書かれている。
デバイスを使用するユーザーは、そのデバイスに設定されている他のどの Chrome プロファイルにも切り替えることができます。 出典: support.google.com
つまり、そのMacを触れる人は、切り替えの操作だけで別のプロファイルの中身を見られる。自分ひとりしか触らない機材で、顧客Aと顧客Bの資料を混ぜないために分けているなら、この性質は問題にならない。一方、他の人と共用する機材や、席を外すことがある環境で、見られては困るものを分けているなら、プロファイルは選ぶ道具として弱い。その用途ではmacOSのユーザーアカウントを分けるほうが筋が通る。
守秘義務のある案件を扱っている場合、この違いは契約上の意味を持つことがある。業務委託の契約書に情報の管理方法が書かれているなら、そこで求められている水準がプロファイルで満たせるのかを、切り替えの速さより先に確かめておきたい。
数を増やすと、切り替えの手数がまた戻ってくる
切り替えを速くする方向とは別に、プロファイルの数そのものを増やして解こうとする流れがある。顧客ごとに1つ、私用に1つ、検証用に1つ、というふうに増やしていくと、分離という目的は達成される。ただし、切り替えの側の負担は増える。
選択画面は上から順に並ぶ縦のリストなので、数が増えれば選ぶ時間も伸びる。3つまでなら位置を体が覚えるが、6つを超えたあたりから毎回読んで選ぶ動作に変わる。読んで選ぶようになった瞬間、それは切り替えではなく検索になっている。
増やしたあとに効いてくる手間は他にもある。
- 拡張機能は1つずつ入れ直しになる。プロファイルの中に入る仕組みのため、10個あれば10回の作業になる
- パスワードの保存先が分散する。プロファイルごとに保存すると、どこに入れたか分からなくなるので、ブラウザ外のパスワード管理へ寄せるほうが後で楽になる
- 同期の設定もプロファイル単位になる。ログインしていないプロファイルの設定は、そのMacの外へは出ていかない
数を増やすかどうかを決めるときの目安は、そのプロファイルを1日に1回でも開くかどうかだ。週に1回しか開かないものは、プロファイルではなくシークレットウィンドウか、別のブラウザで足りることが多い。開く頻度の低いものを常設の選択肢に混ぜると、毎日の選択コストだけが増えていく。使わなくなったプロファイルを消す作業を、四半期に一度でも入れておくと、選択画面は短いまま保てる。
速くするほど回数が増える、という逆説
切り替えを速くする施策には、見落とされやすい副作用がある。1回あたりのコストが下がると、切り替えの回数そのものが増える。
チャットの返信のために別プロファイルを開き、ついでに未読を見て、戻ってきたときには元の作業の続きを思い出すところから始める。この「戻ってきてから元の状態に戻るまで」の時間は、切り替え操作を速くしても短くならない。むしろ、操作が軽くなった分だけ気軽に往復するようになり、合計では悪化することがある。
だから、切り替えの手段を選ぶときの基準は「速いかどうか」だけでは足りない。2つの基準を足すと判断が安定する。
- 往復ではなく片道で済むか。用が済んだら戻らなくてよい形になっているか
- 切り替えた先で、目的の画面まで何手かかるか。プロファイルを開いた時点で終わりなのか、そこからタブを探すのか
2つ目が効いてくる場面は多い。人格の切り替えだけを速くしても、その先で毎回タブの列を横に探しているなら、削れたのは全体の一部でしかない。
手段を「何を切り替えるか」で並べる
同じ「切り替え」という言葉で語られている手段を、何を切り替えているかで並べ直すと、選ぶ基準がはっきりする。
| 手段 | 切り替わるもの | 目的の画面まで | 用意の手間 |
|---|---|---|---|
| プロフィールのメニュー | 人格 | タブを探す | なし |
| 起動時の選択画面 | 人格 | タブを探す | 設定1つ |
| 同じアプリの窓を送る操作 | 窓 | タブを探す | なし |
| 起動オプションでの直接起動 | 人格 | タブを探す | 中 |
| ランチャーに登録したホットキー | 人格 | タブを探す | 中 |
| ブラウザ自体を用途で分ける | 人格 | タブを探す | 小 |
| アプリごとに窓を持つ形 | 道具と人格 | 直接届く | 中 |
3列目に注目すると、上から6つの行が同じ結果になっている。人格を切り替える手段をどれだけ磨いても、その先の探す動作は残る。列の内容が変わるのは最後の1行だけで、そこだけ切り替えの単位が違う。
切り替えの単位をアプリに置き換えると何が変わるか
プロファイルは、もともと1台のパソコンを家族で共用する状況を想定して設計されたものだ。その出自は今も残っていて、区切りの単位は人であり、その中身はすべて等価なタブとして並ぶ。1日中つなぎっぱなしのチャットも、一度読んで閉じる記事も、同じ幅のタブとして扱われる。
区切りの単位をアプリの側に置くと、この前提が変わる。1つのWebアプリが1つの持ち場を持ち、それぞれが自分のセッションを保つため、同じサービスの2つのアカウントは2つの窓ではなく2つの入口になる。アプリごとに独立したワークスペースを持つ形では、切り替えの操作が「誰として」ではなく「どの道具へ」になるので、上の表の3列目が変わる。この持ち場の考え方はワークスペースのページで整理されている。通知の扱いや、ブラウザの外から来たリンクがどこへ着地するかといった周辺の設計はできることにまとまっている。
この形の道具には、無料のものと有料のものがある。どちらが優れているかではなく、どこに境界を引いているかが違うので、比較は境界の位置で見るのが早い。コミュニティが維持している無料のものについてはFerdiumとの比較が、購読型のものについてはWaveboxとの比較が、それぞれ前提の違いを整理している。
導入の判断で最後に確かめておきたいのは、機能表ではなく維持の状況だ。作業環境をまるごと預ける道具は、数年単位で付き合うことになる。更新が続いているか、どの頻度で直っているかは、機能の数より先に見ておきたい項目になる。費用の条件は料金に、導入前に出やすい疑問はよくある質問にまとまっている。
よくある質問
Chromeのプロファイルを切り替える拡張機能は本当に無いのですか?
拡張機能だけで完結するものは作れません。拡張機能はプロファイルの内側に入る仕組みで、公開されているAPIの一覧にもプロファイルを扱う項目がありません。ストアで見かけるものは、特定のWebサービス内でアカウントを切り替えるか、ブラウザの外に入れる別プログラムと組み合わせて起動し直す形のどちらかです。
起動時にプロファイルの選択画面を出すにはどうしますか?
右上のプロフィールから「Chrome プロフィールを管理」を開き、下部にある「起動時に表示する」をオンにします。既定では無効なので、前回使っていたプロファイルにそのまま入る挙動になっています。1日の最初の1回だけに効く設定ですが、朝いちばんの取り違えを防ぐ効果が大きい項目です。
共用のMacで、プロファイルを分ければ他の人に見られませんか?
見られます。Chromeのヘルプに、そのデバイスを使う人は設定済みの他のプロファイルへ切り替えられると明記されています。プロファイルはデータを分ける機能であって、鍵をかける機能ではありません。他人に見られては困るものを分けたい場合は、macOSのユーザーアカウントを分けるほうが適しています。
切り替えを速くしても作業が楽にならないのはなぜですか?
切り替えの操作時間より、切り替えた後に元の作業へ戻るまでの時間のほうが長いためです。さらに、人格を切り替えても、その先で目的の画面を探す動作が残ります。操作が軽くなると往復の回数自体が増えることもあるので、速さだけでなく「片道で済むか」「目的の画面まで何手か」も判断材料に入れると選び方が安定します。