ブラウザ使い分け理由を、Arcのスペースから整理する

仕事用のスペース、副業のスペース、個人用のスペース。Arcの左側にきれいに並べ終えたあとで、ふと手が止まる場面がある。これは本当にアカウントを分けているのか、それともタブの見た目を分けているだけなのか。ブラウザ使い分け理由をあらためて言葉にしようとすると、多くの人がここで詰まる。この記事では、分ける対象を「見え方」「ログイン」「窓」の3つに切り分けたうえで、Arcのスペースがそのどれに効いているのかを整理し、次に何を決めればよいかまで持っていく。

ブラウザを使い分ける理由は、実は同じではない

「ブラウザを使い分けている」と話す人の目的は、聞いてみると大きく3種類に分かれる。混ざったまま道具を選ぶと、入れた道具が自分の悩みに効かない理由が分からないまま終わる。

1つ目は、同じサービスに別のアカウントで同時にログインしたいという目的だ。仕事のGmailと個人のGmail、会社のSlackと副業のSlack。これはCookieの保管場所の問題であり、タブの並べ方をどれだけ工夫しても解けない。

2つ目は、見えるものを減らしたいという目的だ。案件Aの作業をしている間、案件Bの画面が視界に入っていると注意が持っていかれる。これは分離ではなく遮蔽の問題で、必要なのは別のログインではなく、別の景色になる。

3つ目は、目的の画面へ最短で戻りたいという目的だ。タブが40個ある状態で、いま見たい画面を探す時間そのものを消したい。これは窓とアプリの切り替えの問題で、ブラウザの中の話ではなくmacOSの側の話になる。

Arcのスペースは、このうち2つ目に強く、3つ目に部分的に効き、1つ目には設定を足さない限り効かない。ここを取り違えると「分けたはずなのに分かれていない」という状態が生まれる。

Arcのスペースとプロファイルは、別のものを分けている

Arcのスペースは、ピン留めした一群のタブに名前と色を付けて、サイドバーの1枚として扱う仕組みだ。切り替えはショートカットかスワイプで済み、速い。ただしスペースそのものはCookieの入れ物を分けない。同じプロファイルに属する2つのスペースは、同じログイン状態を共有する。片方でサインアウトすれば、もう片方も落ちる。

Cookie・サイトのストレージ・履歴・拡張機能を持っているのはプロファイルの側だ。ArcはChromiumを土台にしているため、この構造はChromeと同じになる。スペースにはプロファイルを割り当てられるようになっていて、この割り当てを済ませて初めて、2つのスペースは「別の身分」になる。

つまりアプリごとに独立したワークスペースという考え方に照らすと、Arcのスペースは並べ方の単位であって、身分の単位ではない。この2つが一致していないことが、Arcを丁寧に設定した人ほど後で戸惑う原因になっている。

いま自分がどちらの状態にいるかは、すぐ確かめられる。同じサービスを2つのスペースで開いて、右上に出ているアカウントが同じかどうかを見ればよい。同じなら、そのスペースたちはプロファイルを共有している。

プロファイルを使用すると、Chrome 上の情報全体(ブックマーク、履歴、パスワードなど)を、プロファイルごとに分離できます。 出典: support.google.com

Chromiumを土台にしたブラウザは、この性質をそのまま引き継いでいる。分離の単位はプロファイルであり、タブでもスペースでもない。

スペースでも消えない3つの手間

割り当てを正しく済ませたスペースでも、残る手間がある。不具合ではなく、Arcが1つのアプリケーションであることから来る性質だ。

  • 通知にアカウント名が出ない。届く情報は「Slack」であって「どちらのSlack」ではない。読む価値があるかを判断するためだけに、切り替えが1回発生する
  • Command+Tabの行き先がブラウザになる。macOSはブラウザ全体を1つの対象として扱うため、アプリ切り替えで着くのは「Arc」であって「仕事のスペース」ではない。そこからサイドバーを見て、スペースを選んで、タブを探す。1手で済んでいた操作が3手になる
  • 窓の並びが再起動で残らない。タブは戻るが、左に作業用、右に資料用という配置は戻らない。その配置はどこにも保存されていないためだ

1回あたりは数秒の話でしかない。それでも軽視できないのは、これが時間ではなく注意力を削るからだ。5秒の中断が1日に何十回も起きる状態は、合計の秒数から想像するよりずっと重い。

スペースではなくプロファイルに付いている設定

頭の中ではスペース単位のつもりでも、実際にはプロファイル単位で管理されている設定がある。ここを知らないと、サイドバーの上では分かれているのに使用感が混ざったまま、という状態になる。

  • サイトの通知許可。通知の許可はプロファイルとサイトの組で保存されるため、プロファイルを3つ作れば同じ許可を3回出すことになる。しかも届いた通知にはサイト名しか出ず、どのアカウント宛かは分からない
  • 拡張機能。拡張機能はプロファイルに入る。個人用の保管庫を開いたままのパスワード管理拡張は、そのプロファイルに割り当てた全スペースで動く
  • ダウンロードの保存先。これもプロファイルの設定なので、取引先のスペースで落としたファイルと個人のスペースで落としたファイルは、プロファイルを分けない限り同じフォルダに並ぶ

1つずつは小さい。それでも3つ重なると、「分けたはずなのに混ざっている感じがする」という曖昧な違和感の正体になる。設定の所在をプロファイル側だと理解して割り当てを見直すだけで、この違和感はかなり減る。

機能追加が止まったあとの判断は、2つに分かれる

Arcは2025年に、新しい機能の追加を終えたことが開発元から公表されている。開発の主軸は別の方針のブラウザへ移り、その後、開発元は他社に買収された。配布とセキュリティ更新は続いており、Chromiumを土台にしたブラウザはエンジン側の修正を上流から受け取る。したがって短期的な論点は「動かなくなること」ではない。

論点は、機能が固定されたことにある。サイドバーの作法、スペースの考え方、プロファイルの割り当ての挙動は、いまの形のまま変わらない。今の設定で困っていないなら、これはむしろ利点として働く。仕様が動かないからだ。逆に、足りない機能を待っていたのなら、待ちは終わっており、答えは「来ない」になる。

移行にはコストがある。いま仕事が回っているブラウザから逃げるためだけに払う価値はない。払う価値があるのは、上に挙げた3つの手間のうち、自分に効いているものが分かっているときだけだ。

使い分けの手段を、同じ質問で並べる

「ワークスペース」という言葉は製品ごとに指すものが違う。だから製品側の語彙ではなく、読者の質問の側で並べたほうが判断しやすい。

手段 ログインが分かれる 文脈ごとに窓が分かれる 再起動後に配置が残る 切り替えの行き先
Arcのスペース(同一プロファイル) いいえ いいえ タブのみ サイドバー
Arcのスペース(スペースごとにプロファイル) はい いいえ タブのみ サイドバー
Chromeのプロファイル はい はい 窓のみ Dockまたはアイコン
Safariのプロファイル はい はい 窓のみ メニュー
Edgeのワークスペース いいえ いいえ タブの組のみ メニュー
Firefoxのコンテナー はい(タブ単位) いいえ タブのみ タブバー
Webアプリを窓ごとに持つブラウザ はい(アプリ単位) はい はい アプリ切り替え

Edgeのワークスペースは、共有と同期を前提にしたタブの組であり、分離の道具として設計されていない。この点でArcのスペースと同じ列に入る。Firefoxのコンテナーは無料で使える中では最も細かく、同じサービスの2アカウントを1つの窓に並べられる唯一の方法だが、すべてが1つの窓に残るという性質は変わらない。

Firefox Multi-Account Containers lets you keep parts of your online life separated into color-coded tabs. 出典: support.mozilla.org

色分けされたタブ、という説明のとおり、区切りの単位はあくまでタブだ。窓の数は変わらない。

スペースの良かった部分は持ち出せる

道具を替えるときに落としてはいけないのは、スペースが実際にうまくやっていた部分だ。ここを捨てると、機能表の上では良くなっているのに使いにくくなる、という結果になりやすい。

持ち出す価値があるのは3つある。1つ目は、いまどの文脈にいるかが一目で分かることだ。色と名前が視界に入っているだけで、確認の操作がゼロになる。置き換える先でも、窓の位置・アイコン・色のいずれかで同じ情報を出す必要がある。

2つ目は、ピン留めしたタブが「たまたま左端にあるタブ」ではなく、常設の枠として扱われていたことだ。常設の道具と、その日だけ読む資料を分ける考え方は、どのブラウザでもどの道具でも通用する。毎日開くものだけが常設の場所を持ち、それ以外は閉じて構わない。

3つ目は、名前を付ける習慣だ。取引先の名前が付いたスペースは、その取引が終わったことを目に見える形にしてくれる。「仕事」「その他」のような一般名で作った置き場所が散らかりやすいのは、中身が期限切れにならないからだ。

切り替えの回数を数えてから、単位を選び直す

どの手段を選ぶかは、アカウントの数ではなく、1日に何回アカウントや案件をまたぐかで決めたほうが外れにくい。またぐ回数が少ないなら、Arcのスペースにプロファイルを割り当てるだけで足りる。同じサービスの2アカウントを同時に見る場面が多いなら、コンテナーが効く。回数が多く、扱うサービスの種類そのものが多いなら、区切る単位をタブや窓からアプリの側へ移すほうが筋がいい。

区切る単位をアプリへ移すと、通知の出どころとアイコンが一致し、切り替えの行き先がサイドバーからmacOSのアプリ切り替えに戻る。サービス単位ではなく案件単位でまとめる考え方はワークスペースで説明している。ブラウザの機能のうち何を窓の中に持ってきて、何を持ってこないのかという線引きはできることにまとまっている。ターミナルを同じ窓の中に置く使い方はターミナルにあり、開発の作業とWebアプリの往復が多い人はここが判断の分かれ目になる。

同じ発想の道具を横に並べて確かめたい場合、価格帯と対応範囲の違いはWaveboxとの比較、窓の作り方の考え方の違いはSidekickとの比較、無料のオープンソースとの線引きはFerdiumとの比較にある。費用の側から先に判断したいなら料金を、導入前に迷いやすい点はよくある質問を見ておくと、比較の順番を間違えにくい。

移行を決めた場合、最初にやることはサイドバーの再現ではない。まず身分を書き出す。会社の自分、個人の自分、取引先ごとの自分。この一覧は、たいていスペースの数より短くなる。終わった案件のスペースが残っているためだ。次に、毎日開くサービスと月に数回しか開かないサービスを分ける。月に数回のものは常設の置き場所を要らない。ここまで済ませてから手段を選べば、道具を替えても同じ散らかり方を再現せずに済む。

よくある質問

Arcのスペースを分ければ、アカウントも分かれますか?

分かれません。スペースはタブの並べ方の単位で、ログイン状態を持っているのは背後のプロファイルです。同じプロファイルに属するスペースは、すべて同じCookieの保管場所を共有します。スペースごとに別のプロファイルを割り当てて初めて、別のアカウントとして扱われます。設定画面で明示的に割り当てる必要があります。

Arcは機能追加が止まったあとも使い続けて問題ありませんか?

配布とセキュリティ更新は続いており、Chromiumを土台にしたブラウザはエンジン側の修正を上流から受け取ります。短期的に動かなくなる心配は小さいです。判断のポイントは安全性ではなく、機能が固定された点にあります。いま足りないと感じている機能は、今後も追加されない前提で選ぶことになります。

Chromeでスペースに近いことをするには何を使いますか?

タブグループとプロファイルの併用が近い形になります。タブグループは見た目のまとまりを再現でき、保存と同期にも対応しますが、Cookieはプロファイル側で共有されたままです。プロファイルはログインを分けて別の窓で開きますが、サイドバーのような一覧はありません。両方を使うと近づきますが、窓の数は増えます。

プロファイルはいくつまで作ってよいですか?

問題になるのは作った数ではなく、同時に開いている数です。開いているプロファイルはそれぞれ独立したブラウザのセッションとして動くため、メモリを使います。目安は、その週に実際に使っている身分の数で、多くの場合3つか4つに収まります。それを超える分は、たいてい終わった案件が残っているだけです。

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