複数アカウント向けブラウザの選び方|Macで比べる4つの標準機能
複数アカウント向けのブラウザを探し始めるのは、たいてい何かをやらかした直後です。私用のアドレスから取引先に返信してしまった。共有ドキュメントを開いたら別名義で入っていて、相手の画面に表示された。パスワード管理ツールがA社の資格情報をB社のログイン画面に入れた。そこで「もっといいブラウザ」を探すのは自然な反応ですが、実のところブラウザ同士の差は宣伝ほど大きくありません。違うのは、境界をどの単位で引くかと、切り替えるたびに何秒かかるかの2点です。
「複数アカウント」には性質の違う2つの困りごとがある
1つ目は、同じサービスに2つのアカウントを持つ困りごとです。Googleアカウントが2つ、別々のメールアドレスで入っているSlackが2つ、取引先ごとに用意された管理画面が2つ。ここでの障害は技術的なもので、ログイン状態を保っているクッキーはタブではなく保存領域に属しているため、1つの保存領域には1サイトにつき1つのログインしか置けません。解決するには、保存領域をもう1つ用意するしかありません。
2つ目は、たくさんのサービスを同時に開き続ける困りごとです。メール、チャット、ドキュメント、デザイン、課題管理。それぞれアカウントは1つずつなので、技術的な衝突は起きません。代わりに削られるのは注意力です。見た目の区別がつかないタブが30個、どこから来たか分からない通知、目当てのタブを探す数秒が1日に何百回。
この2つは対処法が違います。前者に強いブラウザが後者にはまるで役に立たない、ということが普通に起こります。自分を消耗させているのがどちらなのかを見極めるのが、選び方の最初の一歩になります。
標準で用意されている分け方を、横に並べる
追加費用なしで、最初から入っているものだけを比べます。
- Chromium系(Chrome・Edge・Brave・Vivaldi)は同じプロファイルの仕組みを受け継いでいます。プロファイルは独自のクッキー・パスワード・拡張機能・履歴を持つ保存領域で、それぞれが専用の窓で動きます。Edgeにあるワークスペースはタブの集合を同僚と共有する機能で、アカウントを分けるためのものではありません
- SafariはSafari 17でプロファイルに対応しました。プロファイルごとにタブグループ・履歴・お気に入り・機能拡張を分けて持ちます。使い勝手はChromium系のプロファイルとほぼ同じです
- Firefoxには2つの仕組みが並んでいます。1つはChromeと同じ発想のプロファイルで、通常の設定画面の外から管理します。もう1つがコンテナで、Mozillaが提供している拡張機能として追加します
コンテナは他と発想が違います。分ける単位がタブなので、1つの窓の中に2つのアカウントを並べられます。それ以外の方法はすべて、2つ目のアカウントには2つ目の窓が要ります。
| 方法 | 分ける単位 | 1つの窓に2アカウント | 拡張機能の分離 |
|---|---|---|---|
| Chromium系のプロファイル | 窓 | できない | される |
| Safariのプロファイル | 窓 | できない | される |
| Firefoxのプロファイル | 窓 | できない | される |
| Firefoxのコンテナ | タブ | できる | されない(共通) |
| プライベート・シークレット | セッション | 1つだけ追加 | ほぼ無効 |
ブラウザを変えても、サービス側の制約は変わらない
いちばん見落とされやすいのがここです。厄介な挙動の何割かは、ブラウザではなくサービス側が決めています。
Googleは1つの保存領域に複数アカウントを同時にログインさせられます。アカウント切り替えの仕組みがあるのはそのためです。ただし、その複数は対等ではありません。Googleのヘルプは次のように説明しています。
複数のアカウントに同時にログインしている場合、使用しているアカウントがどれか Google で判断できなくなることがあります。たとえば、2 つのアカウントにログインした状態で、新しいブラウザ ウィンドウを開く場合に、どちらのアカウントを使用するか判断できないことがあります。 出典: support.google.com
最初にログインしたアカウントが既定として扱われ、ブラウザの外から踏んだリンクは、本来どのアカウント宛てのものであっても、そちらに落ちやすくなります。これはブラウザを乗り換えても直りません。判定はページが描画される前にGoogle側で終わっているからです。
チャットツールはまた事情が違います。Slackは同じメールアドレスで参加した複数のワークスペースを1つの資格情報として扱い、切り替えで行き来できます。一方、別のメールアドレスで参加したワークスペースは別のログインになるため、1つの保存領域には同時に置けません。Microsoftの個人用アカウントと職場用アカウントのように、そもそも1つのセッションに同居しにくい組み合わせもあります。
つまり、一般論でブラウザを選ぶ前に、自分が毎日使っているサービスがどちら側なのかを確かめる必要があります。難所になっているサービスが元から切り替えに対応しているなら、ブラウザ選びの重要度は思ったより下がります。
選ぶときに確かめる5つのこと
- クッキーを本当に分離しているか。同じプロファイルの窓を2つ開いても、プライベートウィンドウを使っても分離されません。分離されるのはプロファイルとコンテナだけです。1つ目の困りごとに効くかどうかは、この1点で決まります
- 1回の切り替えに何手かかるか。いまのアカウントから目的のアカウントまでのクリック数を数え、1日の切り替え回数を掛けてください。漠然とした苛立ちが、対処すべき数字に変わります
- 通知に出どころが書いてあるか。プロファイルを分けても、届く通知の見た目は同じです。通知への対応がアカウントによって変わる仕事なら、この項目が最優先になります
- 外から踏んだリンクがどこで開くか。メールやカレンダーのリンクは、OSが既定と判断したブラウザに渡り、そこで最後に前面だった窓に落ちます。プロファイルが3つを超えると毎日ぶつかります
- 移行後に作り直すものが何個あるか。拡張機能・保存パスワード・固定タブは、プロファイル間でもブラウザ間でも自動では移りません。この個数が乗り換えの実質コストです
乗り換えに本当にかかる手間
新しいブラウザを入れるだけなら2分で終わります。そこで暮らせるようになるまでが長く、しかも長い部分はあまり語られません。
拡張機能は1つずつ入れ直し、設定もやり直しになります。拡張機能自体にログインが要るものは、そのぶんログインし直しです。パスワード管理ツールを使っているなら移行は軽く済みますが、ブラウザ自身が保存したパスワードは書き出して読み込む必要があり、途中で暗号化されていない平文のファイルが手元にできます。読み込みが終わったら消してください。
さらに、既定のブラウザという設定はMac全体で1つしか選べません。2つのブラウザを用途で使い分けるなら、どちらか一方は既定ではなくなります。慣れるまでの間、他のアプリから踏んだリンクは全部そちらではないほうに落ちます。
正直に言えば、ブラウザの乗り換えは1回やる価値はあっても、繰り返す価値はありません。1か月で5つ試すのは、元の困りごとが1年かけて奪う時間より高くつきます。
どのブラウザを選んでも分かれないもの
ブラウザを替えれば直ると期待されがちなことのうち、いくつかはブラウザの外で起きています。ここに挙げるものは、上のどれを選んでも変わりません。
ダウンロードしたファイルは、ディスク上の同じフォルダに落ちます。取引先のアカウントで取得した契約書と、私用で取得した請求書が同じ場所に並び、ファイルの側にはどちらのセッションから来たかの記録が残りません。Chromium系ならプロファイルごとに保存先を変えられるので、分けたいならその設定を自分で入れるしかありません。
通信も共通です。プロファイルでもコンテナでも別のブラウザでも、出ていく回線は同じで、サイトから見えるグローバルIPアドレスも同じです。画面の大きさ、OSのバージョン、入っているフォントといった情報も変わりません。アカウントを分けることは、相手から見て別人になることではありません。ここを取り違えた前提で組んだ運用は、必ずどこかで期待を裏切ります。
アクセスの制限もありません。ブラウザのプロファイルにパスワードはかからず、ロックが解けているMacの前に座った人は、数クリックでどのプロファイルにも移れます。2人を本当に分けたいなら、その境界を引けるのはmacOSのユーザアカウントであって、ブラウザの内側にある仕組みではありません。
そして既定のブラウザは、Mac全体で1つしか選べない設定です。2つのブラウザを用途で使い分ける構成にすると、メールでもカレンダーでもチャットでも、外から踏んだリンクは全部どちらか一方に集まります。その都度手で開き直すぶんが、この構成にずっと付いてくる小さな税金になります。
全部を移さずに試す方法
新しいブラウザをいちばん安く試す方法は、最初から全部を任せず、狭い仕事を1つだけ渡すことです。アカウントを1つだけ移し、残りはそのままにして、既定のブラウザの設定も変えずに2週間使ってみてください。不満が表に出るには十分な長さで、やめても何も失わない短さです。
その間に見ておくのは3つです。意図しない窓が前に出てくる頻度。移したアカウントからの通知が、中身を読まずに見分けられるかどうか。必要な拡張機能が存在して、同じように動くかどうか。それ以外は好みの問題で、使っているうちに落ち着きます。
この試し方は、うまくいかなかった場合も同じくらい役に立ちます。難所になっているサービスが、ブラウザを替えても2つのセッションを持てないと1週目で分かれば、全部を移す作業をせずに済みます。そしてその結果は、直すべき対象がブラウザの銘柄ではなく窓の並べ方であることを示しています。
アカウントの数で、正解が入れ替わる
アカウントが2つなら、いま入っているブラウザの標準機能で足ります。プロファイルをもう1つ作り、色と起動の入口だけ丁寧に決めれば、追加費用はゼロで解決します。それ以上の仕掛けはむしろ管理の手間になります。
3つ、4つと増えると、作りが軋み始めます。窓の見分けがつかなくなり、通知は出どころ不明で届き、切り替えが「選ぶ」から「探す」に変わります。色分けと専用ランチャーでしばらくは保ちますが、根本は変わりません。
その先では、困りごとの性質そのものが入れ替わっています。セッションを分ける問題はプロファイルがすでに解いています。残っているのは、ブラウザがすべてのアプリを「同じ形をした窓の中の、名前のないタブ」として扱うことのほうです。1日の多くが、作業ではなく探索に消えます。
ここで検討する価値が出てくるのが、分ける単位をアカウントからアプリに移し替える形です。メールはメールの窓、チャットはチャットの窓と決めておくと、アプリごとに独立したワークスペースが固定され、目当てのものが常に同じ場所にあります。その考え方の整理はワークスペースにあり、どのサービスをその形で扱えるかは使えるアプリで確認できます。同じ発想の先行製品と比べたい場合はWaveboxとの比較とFerdiumとの比較に違いがまとまっていて、費用の目安は料金にあります。
比較記事を読み比べる前に、まず1日だけ切り替えの回数を数えてください。回数が少なくて困りごとがログインなら、プロファイルを1つ足せば済みます。回数が多くて困りごとが窓探しなら、変えるべきはブラウザの銘柄ではなく、窓の持ち方です。
よくある質問
1つの窓の中で同じサイトの2アカウントを開けるブラウザはありますか?
Firefoxにマルチアカウントコンテナの拡張機能を入れた構成なら開けます。コンテナは窓ではなくタブに属する仕組みだからです。Chrome・Safari・Edgeのプロファイルを含め、他の主要な方法はいずれも2つ目のセッションに2つ目の窓が必要になります。
プロファイルを増やすとMacは重くなりますか?
同時に開いている数だけブラウザのプロセスとキャッシュが増えるため、メモリの使用量はおおむね比例して増えます。作ってあるだけで開いていないプロファイルはディスク容量を使うだけです。実際の上限はブラウザ側の制限ではなく、搭載メモリで決まります。
シークレットウィンドウを2つ目のアカウント用に常用できますか?
短い作業なら使えますが、常用には向きません。閉じるとクッキーが残らないため毎回ログインし直しになり、同じブラウザから開いた複数のシークレットウィンドウは1つのセッションを共有するので、3つ目のアカウントには使えません。
プロファイルを増やすのと、2つ目のブラウザを入れるのはどちらがよいですか?
2つ目のブラウザを入れるとセッションは完全に分かれ、Dockのアイコンも別になるので分かりやすくなります。代わりに拡張機能と更新の管理が2組になり、既定のブラウザに指定できるのは片方だけです。アカウントが2つまでなら、プロファイルを増やすほうが手間は少なく済みます。