Stackブラウザとは|何ができて、どこで詰まるか

タブが横に並びすぎて、どれがどの案件の画面なのか見分けがつかない。その状態を解決する道具を探していると、Stackブラウザの名前に行き当たることがある。タブをやめてカードを横に並べるという発想は、スクリーンショットで見るかぎり気持ちがよい。ただし実際に導入を検討する段になると、調べても分かりにくい点が3つ残る。どの世代の製品の話なのか、どうすれば使い始められるのか、公開されている機能のうち今すぐ使えるのはどれなのか。この記事では、その3点を公式に出ている情報だけで確認し、自分の詰まりに効く道具なのかを判断できる状態まで持っていく。

タブではなくカードを横に並べる、という設計

Stackブラウザの中心にあるのは、開いているページを1枚ずつのカードとして横方向の空間に並べるという考え方だ。通常のブラウザはタブが増えるほど1つあたりの見出しが縮み、最後はアイコンだけになる。カード方式ではその圧縮が起きない代わりに、画面上に同時に置ける枚数が限られる。チャットの画面と資料の画面を隣り合わせにしたまま作業する、という使い方が既定の姿になる。

カードをまとめる単位は Flow と呼ばれている。公式の料金ページには、work-work・personal・study・news・shopping といった名前の Flow が例として並んでいる。案件ごと、生活の場面ごとに束を作って、その束ごと切り替えるという設計だ。束の移動はキーボード操作が前提になっていて、Command と Esc で呼び出す Fly Mode という移動モードが用意されている。

Flow とは別に、プロファイルの仕組みも持っている。料金表ではプロファイル無制限が無料の段階から書かれている。ここは混同されやすいので分けて理解しておきたい。Flow は画面上の並べ方を決める単位であり、ログインしている身分を決める単位ではない。同じプロファイルに属する2つの Flow は、同じアカウントのセッションを共有する。仕事用と個人用の Gmail を同時に開きたいという目的なら、見るべきはカードの並びではなくプロファイルの側になる。この線引きは道具を問わず共通で、ワークスペースでは1つのサービスを1つの窓として扱う場合に境界がどこに引かれるのかを整理している。並べ方の話と身分の話は、最初に分けておいたほうが評価が早い。

「Stack」という名前は、2つの世代を指している

検索で出てくる情報には、世代の違う2つの製品が混ざっている。ここを踏まえずに古い記事を読むと、手元の画面と説明が噛み合わない。

公式のFAQでは、2019年から2021年まで開発・保守していた版を Stack Legacy と呼んでいる。カード型のブラウジングという考え方が成立するかを確かめるための実証版という位置づけだ。いま配布されているのはその後継で、公式のロードマップでは12月にネイティブの技術で作り直したと書かれている。速度とメモリ効率を上げ、拡張しやすい構造にすることが目的とされている。

したがって、2021年以前に書かれたレビューや操作解説は、ほぼ Legacy の説明だと考えたほうがよい。メニューの位置もショートカットも拡張機能の扱いも、現行版と一致する保証がない。逆に、昔インストールして合わないと感じて離れた人の記憶も、そのまま現行版の評価にはならない。第三者の情報を読むときは、機能の説明より先に「いつ書かれたか」を見るのが早い。

使い始めるまでに、もうひと手間かかる

Stackブラウザは、ダウンロードしてすぐ使える形では配られていない。公式FAQは、現在クローズドベータの段階であり一般公開はしていないと明記している。

No, Stack is currently in a closed beta phase and not yet publicly available. However, early access is being granted to Stack Legacy users, people on the waitlist, and those who purchase Lifetime Licenses. 出典: stackbrowser.com

入り口は3つある。待機リストやコミュニティ提携を通じて受け取った招待コードを起動画面で入力する方法、ライフタイムのライセンスを購入してメールまたはウォレットで認証する方法、そしてすでに Stack Legacy を使っている場合に Legacy の中から新しい版を取得する方法だ。いずれにも当てはまらない状態でインストーラーだけ落としても、起動画面から先に進めない。

対応している環境は Mac と Windows で、ダウンロードページには Intel の Mac、Apple シリコンの Mac、Windows の3種類のインストーラーが並んでいる。Linux については提供していないとFAQに書かれており、その回答に添えられた見込み時期は Q4 2023 のまま残っている。評価の計画を立てるときは、設定にかかる時間の前に、この「入場するまでの時間」を見込んでおく必要がある。待機リスト経由の場合、どれくらいで案内が来るのかは公表されていない。

土台はChromium、その上にElectronを改造して載せている

内部の作りについても公式FAQが答えている。描画エンジンはChromiumで、そこへ到達する経路としてElectronを使い、必要な部分を独自に改造していると説明されている。カードを横方向に滑らせたときの手触りを native に近づけるため、Electron に native のスクロールビューを持ち込んだという記述もある。

ここから2つのことが言える。どちらも公式が同じページで認めている内容だ。

  • 1枚のカードが使うメモリとCPUは、Chromeでタブを1つ開いたときと同程度になる。エンジンが同じなのだから当然で、カードにしたから軽くなるわけではない
  • その代わりにカードを一時的に眠らせる仕組みが用意されていて、作業が終わったカードを休止させることでメモリの消費を抑えられる

つまり、空間に並べる設計が直接効くのは「探す時間」であって「使用メモリ」ではない。閉じると話が途切れるからタブを40個抱えている人は、カードに移しても同じ天井に当たる。休止させる習慣を一緒に持ち込まないかぎり、置き場所が変わるだけになる。

いま出来ないことが、判断の分かれ目になる

公式に「まだ」と書かれている項目が3つある。この3つのどれが自分に効くかで、常用できるかどうかが決まる。

1つ目は拡張機能だ。FAQには、Chromeの拡張機能は現時点では未対応だと1行で書かれている。同時に、拡張機能への対応が最優先の課題であり、すでに着手していることも書かれている。一方でトップページには、普段使っている拡張機能がそのまま使える旨の紹介が載っている。この2つは意図と現状を別々に書いたものだと読むのが正確で、パスワード管理や広告ブロックの拡張が仕事の前提になっている人にとっては、ここが最初の分岐点になる。

2つ目は他のブラウザからのインポートだ。履歴・ブックマーク・ログイン中のセッション・パスワードを移す機能は、まだ用意されていないとFAQに書かれている。段階的に追加していく方針で、拡張機能への対応と並んで進めるとされている。ロードマップでは、パスワード管理とダウンロード管理も「次の里程標」に含まれると書かれており、これらも現時点では実装済みの機能ではない。

3つ目は配布されている版そのものの状態だ。ダウンロードページが配っているインストーラーは 4.9.13-beta.1 で、配信元のストレージが返す最終更新日は2024年10月10日だった。中核に据えられている live collaboration は、トップページでも料金表でも coming soon と表示されている。サイト上部のナビゲーションにある Blog のリンクは別のホストを指していて、そのホストはHTTPSの接続を完了しない。どれか1つで良し悪しが決まる話ではない。ただし、どれくらいの速さで動いている製品なのかを判断する材料にはなる。

確認したい点 公式に書かれている内容
提供の形 クローズドベータ。招待コード・待機リスト・購入・Legacyからの更新のいずれかが必要
対応OS Mac(IntelとAppleシリコン)とWindows。Linuxは非対応
エンジン Chromium。Electronを改造して利用
Chrome拡張機能 現時点では未対応。最優先課題として着手中と記載
他ブラウザからの取り込み 未提供。段階的に追加予定
共同編集 coming soon
配布中のインストーラー 4.9.13-beta.1(ファイルの最終更新は2024年10月10日)

自分の詰まりに効くかどうかは、3つの質問で分かる

道具の良し悪しではなく、噛み合うかどうかで考えたほうが早い。判断のための質問は3つに絞れる。

1つ目は、探す時間が問題なのか、という質問だ。開いているはずの画面を探し回っているなら、カードを横に並べる設計はそこに効く。同時に見える枚数が増えるほど、切り替えそのものが減る。

2つ目は、アカウントの分離が問題なのか、という質問だ。同じサービスに3つのアカウントで入りたいなら、必要なのはプロファイルの層であり、通知・ダウンロードの保存先・セッションが期待どおりに分かれるかを実際に試して確かめる必要がある。アプリごとに独立したワークスペースという考え方を取る道具は、この層をどこまで厳密に分けるかで性格が変わる。厳密さの度合いを比べたいときはSidekickとの比較が参考になる。同じ「1つにまとめる」でも、分け方の設計は製品ごとに違う。

3つ目は、切り替えの入り口が問題なのか、という質問だ。macOSのCommand+Tabで着く先がブラウザ1つになってしまうという不満は、中をどう並べても解消しない。1つのアプリケーションに全部を入れる設計に共通する性質だからだ。ここを重視するなら、サービスごとに扱いを分けられるかどうかを先に確かめたほうがよい。どのサービスが対象になるかは使えるアプリのような一覧で当たりを付けられる。

公開情報から読み取れる、導入判断の輪郭

ここまでの事実を並べると、Stackブラウザは「完成した代替品」ではなく「方向性に賭ける段階の製品」として提供されていることが分かる。クローズドベータであること、ライフタイムのライセンスを限定数で売って開発資金に充てる方針を公式に説明していること、共同編集という中核機能が予定として書かれていること。この3つは、すべて同じ状態を別の角度から示している。

その前提を受け入れられるなら、カード型の操作感を確かめる価値はある。逆に、明日から今のブラウザを置き換えたい、拡張機能もパスワード管理もそのまま移したい、という要件であれば、現時点の公開情報はそれに応えていない。評価するなら、常用しているブラウザを残したまま2週目のブラウザとして置き、カードで並べる習慣が自分に定着するかどうかだけを見るのが安全な進め方になる。判断に使える軸をもう少し具体的に持ちたい場合は、できることで挙げている機能の並びと、自分が毎日触るサービスの数を突き合わせてみるとよい。必要な機能が揃っているかではなく、毎日何回その道具を通るかで、導入の効果はほぼ決まる。

よくある質問

Stackブラウザは無料で使えますか?

公式の料金ページには Starter という無料の段階があり、free forever と記載されている。ブラウジングの基本機能、プロファイル無制限、5つの Flow、3色のテーマまでが無料の範囲になる。ただし料金以前にクローズドベータであるため、招待コードか待機リストか購入かLegacyからの更新のいずれかを経ないと、無料の範囲も使い始められない。

Chromeの拡張機能はそのまま使えますか?

現時点では使えない。公式FAQに「Chrome Extensions are not currently supported」と明記されている。同じ回答で、拡張機能への対応が最優先の課題であり着手済みだとも説明されている。パスワード管理や広告ブロックを拡張機能に依存している人は、ここを最初の判断材料にするのが確実だ。

Macだけでなく Windows でも使えますか?

ダウンロードページには Intel の Mac、Apple シリコンの Mac、Windows の3種類のインストーラーが用意されている。Linux については提供していないとFAQに書かれており、その回答にある見込み時期は Q4 2023 のまま更新されていない。Linux が必要な環境では、現時点で選択肢に入らない。

いま開発は続いていますか?

公式のロードマップでは、作り直しを終えた後の次の目標として拡張機能・パスワード管理・ダウンロード管理が挙げられ、その先に共同編集が置かれている。一方で配布中のインストーラーは 4.9.13-beta.1 で、ファイルの最終更新日は2024年10月10日だった。共同編集も coming soon の表示のままになっている。確認できる事実はここまでで、購入を検討する場合はダウンロードページと料金ページを自分で開いて最新の状態を見たほうがよい。

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