Waveboxとは|何ができて、どこで詰まるか

Waveboxという名前は、タブが増えすぎた話題や、Gmailを複数アカウントで開き分ける話題の周辺でよく出てきます。ただ、紹介のされ方が「メールアプリ」「ブラウザ」「作業用の統合環境」と記事ごとに揺れていて、結局これが何なのかがはっきりしません。実体はChromium系のデスクトップブラウザで、タブではなくアプリを中心に画面を組み替えたものです。ここでは、その作りを階層ごとに分解したうえで、導入時に詰まりやすい場所まで含めて見ていきます。

メールアプリから始まり、2019年にChromiumへ移った

Waveboxの現在の形を理解するには、出発点が普通のブラウザではなかったことを押さえておくと早くなります。公式の沿革ページには、次の流れが記載されています。

  • 2016年: WMailという名前で、Electron製のメールアプリとして公開
  • 2019年: 土台をElectronからChromiumへ移行
  • 2020年: GPT-3を組み込んだブラウザとして機能を追加
  • 2023年: チーム向け機能を作り直し
  • 2024年: 画面とスペースの作りを刷新

最初がメールアプリだった、という点がその後の設計に効いています。複数のメールアカウントを同時にサインインさせたままにする、という課題が先にあり、それを一般のWebアプリ全体へ広げた結果が今の形です。タブの整理機能が先にあって、そこにメールが乗ったわけではありません。

開発元は英国の企業で、ベンチャーキャピタルの資金を入れずに運営していることを公式に掲げています。土台がChromiumである以上、描画とセキュリティ更新はChromiumの流れに追随します。ChromeやEdgeと同じ拡張機能が動くのは、この土台を共有しているからです。SOC 2とISO 27001への対応を進めている段階である旨も公式サイトに記載があります。

Profile、スペース、グループ、アプリの4階層で画面ができている

使い始めて最初に混乱するのが用語です。似た言葉が4つ並びますが、役割はきれいに分かれています。

階層 役割 分かれるもの
Profile 完全に独立した環境 設定、拡張機能、パスワード、履歴のすべて
スペース ログイン情報の置き場 Cookieとサインイン状態
グループ 作業のまとまり 見た目の並び、色、アイコン、未読バッジ
アプリ・タブ 実際の画面 なし(どれかのスペースに属する)

このうち中心はスペースです。公式のナレッジベースは、スペースの旧称と役割をこう説明しています。

Spaces (previously known as cookie containers or cookie profiles) allow you to stay signed-in to multiple app/website accounts and use them side-by-side without conflicts. 出典: hub.wavebox.io

スペースがCookieの箱である以上、同じサービスに3つのアカウントで同時にサインインしたままにしたければ、スペースも3つ要ることになります。ここがChromeのプロファイル切り替えとの違いです。Chromeのプロファイルは1つの窓に1つですが、スペースは同じ窓の中に複数が同居します。

グループは、Webdockと呼ばれる縦のサイドバーに並ぶ角丸四角のアイコンです。グループごとに色とアイコンと未読バッジを持ち、それぞれが横向きのタブ列を抱えます。スマートフォンのホーム画面でアプリをフォルダにまとめる感覚に近い作りです。グループにはスペースが1つ結び付いていて、そのグループで作業中に追加したものは自動的にそのスペースへ入ります。ただしこれは初期値であって、1つのグループに別々のスペースのアプリを混ぜることもできます。

Profileは、いちばん外側の境界です。設定も拡張機能もパスワードも共有されず、画面右上のアイコンで切り替えます。

できることは、集約と、集約したあとの操作に分かれる

機能の一覧は長いのですが、性質で分けると2種類しかありません。集めるための機能と、集めた後に速く動くための機能です。

集めるための機能は、スペースによるアカウントの同居、アプリごとの常時サインイン、2,500以上のサービス向けの作り込み(アイコン、未読の数え方、休眠の設定)です。加えてChromeウェブストアの拡張機能がそのまま使え、標準で20以上の拡張機能が内蔵されています。

集めた後の操作に当たるのが次の部分です。

  • Ctrl+S で全体を横断する検索。アプリ、タブ、ウィジェット、メモまで対象になる
  • Ctrl+Tab で直近5つのアプリを循環する切り替え
  • 分割画面。同じ種類のアカウント2つ(たとえば2つのGoogleカレンダー)を左右に並べられる
  • リンクの行き先の指定。チャットに貼られたリンクを、対応するアプリ側で開かせる
  • フォーカスモード。通知、バッジ、音を一時的に止める。対象をグループ単位で選べる

このうち実務で効きやすいのはリンクの行き先の指定です。複数のアカウントを同時にサインインさせていると、どのアカウントでリンクを開くかが毎回問題になります。この判定を手で毎回やらずに済ませる仕組みが入っている、というのが集約系の道具の分かれ目になります。

詰まるのは、機能の不足ではなく前提の置き方

導入して止まる場所は、たいてい機能が足りないからではありません。使い方の前提が普通のブラウザと違うところで起きます。

第1に、スペースとProfileの使い分けです。公式が両者の違いを解説する記事を別途用意しているほど、混同が起きやすい部分です。ログインだけ分けたいのか、環境ごと分けたいのかを決めずに作り始めると、後から作り直すことになります。

第2に、無料の枠です。無料のBasicはスペース2つ、グループ2つ(各2アプリ)、拡張機能1つ、ダッシュボード1つに限られます。3社目の取引先を抱えた時点でこの枠を超えるため、無料のまま長く運用する前提だと途中で行き詰まります。金額と枠の内訳は料金の考え方と合わせて見ると判断しやすくなります。

第3に、動く環境です。macOSは12(Monterey)以降が対象で、Apple SiliconとIntelの両方に対応しています。WindowsとLinux版もあります。古いMacをそのまま使い続けている場合は、ここで先に引っかかります。

第4に、Webアプリしか入らないという前提です。集約の対象はブラウザで開くサービスであって、Mac App Storeから入れたネイティブアプリは対象外です。日常の道具がネイティブアプリ寄りの人ほど、集約できる割合が下がります。

第5に、1つの窓に集めることそのものの副作用です。アカウントもタブも1つの窓に集まるため、その窓が重くなったときの影響範囲が広がります。Chromium系である以上、抱えるアプリと拡張機能の数に比例してメモリは増えます。常時開くものと、都度開くものを分けて運用しないと、集約したのに重い、という状態になります。

向いている人と、そうでない人の線引き

ここまでの作りを踏まえると、合う条件はかなり具体的に書けます。

向いているのは、同じサービスのアカウントを3つ以上抱えている人です。取引先ごとにGoogleワークスペースに招待されている、代行業として複数社の管理画面を預かっている、家族の分の予約や手続きを自分の端末で処理している。こうした状況では、ブラウザのプロファイルを切り替える運用が1日に何度も発生します。切り替えのたびに画面の中身が丸ごと入れ替わるため、両方を同時に見る作業(片方の予定を見ながら片方に入力する、など)が構造的にできません。スペースが同じ窓に同居する作りは、ここを直接解きます。

向いていないのは、アカウントが2系統以下で、かつ毎日使うサービスが少ない人です。この場合、無料の枠に収まるので費用は発生しませんが、得られる変化も小さくなります。用語を4つ覚えて設定を組む手間のほうが、解決する問題より大きくなる可能性があります。

判断がつきにくいのが中間層です。アカウントは2つだが、開いているタブが常時30枚を超えている、という状態がこれに当たります。この場合の詰まりはアカウントの混線ではなく、タブの中から目的の1枚を探す時間です。原因が違うので、解き方も変わります。アカウントを分ける機能ではなく、面を切り替える機能や横断検索のほうが効きます。自分の詰まりがどちらなのかを先に見分けておかないと、導入しても手応えが出ません。

乗り換えで時間を取られるのは設定ではなく再ログイン

導入そのものは短時間で終わります。実際に時間を取られるのは、インストール後の再ログインです。

ブックマークとパスワードは、ChromeやEdgeから取り込む導線が用意されています。パスワードの取り込みは端末の外に出ない形で行われると明記されています。それでも、スペースを分けるということは、各スペースで改めてサインインするということです。2段階認証を設定しているサービスが多いほど、この工程は伸びます。

移行にかかる時間を見積もるとき、サービスの数を数えても実態に合いません。数えるべきは認証の回数です。スペースを3つに分けて、それぞれに5つのサービスを入れるなら、サインインは15回です。このうち2段階認証が要るものが半分あれば、認証アプリやSMSを待つ時間がその分乗ります。1つあたり2分で終わるものばかりではなく、パスワードを思い出せないサービスが混ざると、そこだけで10分単位の時間が飛びます。

もう1つ見落とされるのが、既定のブラウザをどうするかです。集約する道具を入れても、メールクライアントやPDFから開いたリンクが従来のブラウザに飛び続けると、結局2つのブラウザを行き来することになります。既定を切り替えるかどうかは、試用の初日ではなく、常用するアプリが一通り入ってから決めるほうが判断を誤りません。

現実的な段取りは、全部を一度に移さないことです。毎日開くものから順に、スペースを1つずつ埋めていく。この移行の重さは、集約する道具に共通する部分でもあります。似た設計の道具がどこで分かれるかはRamboxとの比較Sidekickとの比較に、機能の範囲はできることに整理してあります。

集約の方式は2通りある、という見方

この種の道具を評価するとき、機能表を上から順に照合しても差は出にくくなります。分かれ目は、何を単位にして画面を切っているかです。

1つは、アカウントを単位にして切る方式です。スペースのようにログイン情報の箱を先に作り、その中にアプリを入れていきます。同じサービスの複数アカウントを抱える人にとっては、この形が素直です。

もう1つは、作業の場面を単位にして切る方式です。案件や役割ごとに面を作り、そこに必要なアプリを置く。アプリごとに独立したワークスペースを並べる考え方はこちらに近く、面を切り替えると開いているものが丸ごと入れ替わります。この考え方の整理はワークスペースに、コマンドを直接扱う側の機能はターミナルにまとめています。

どちらが向くかは、詰まっている場所で決まります。同じサービスのアカウントが増えすぎて混ざるのが問題なら前者、案件を切り替えるたびに画面を組み直しているのが問題なら後者です。自分の1日のうち、どちらの操作に時間を取られているかを数日観察してから決めると、導入したあとに作り直す手戻りが減ります。

よくある質問

Waveboxは普通のブラウザとして使えますか?

使えます。土台はChromiumで、Chromeウェブストアの拡張機能がそのまま動きます。違いはタブではなくアプリを中心に画面が組まれている点で、サイドバーに並ぶグループとスペースを切り替えながら使います。macOSは12(Monterey)以降が対象です。

スペースとProfileは何が違いますか?

スペースはログイン情報(Cookie)だけを分ける箱で、同じ窓の中に複数が同居します。検索やバッジ、分割画面はスペースをまたいで働きます。Profileは設定も拡張機能もパスワードも含めて完全に別環境で、互いに何も共有しません。同じMacを別の人と使う場合はProfileを分けます。

Gmailを3つ同時にサインインしたままにできますか?

スペースを3つ用意すればできます。ただし無料のBasicはスペース2つ、グループ2つ(各2アプリ)までなので、3つ目からは有料のPro以降が必要です。試用期間中に追加したアプリの設定は、後から有料に切り替えた時点でそのまま使えます。

導入で一番時間がかかるのはどこですか?

各スペースでの再ログインです。ブックマークとパスワードはChromeやEdgeから取り込めますが、スペースを分けた分だけサインインをやり直すことになります。2段階認証を使っているサービスが多いほど伸びるため、毎日開くものから順に1スペースずつ埋めていくほうが現実的です。

記事一覧へ戻る