ブラウザの使い分けは4つの層で決まる|Macでの分け方
ブラウザ 使い分けという言葉で調べる人の動機は、だいたい2つに分かれる。1つは、画面を人に見られる可能性がある場所で作業していて、履歴や自動入力を残したくないという動機。もう1つは、仕事と個人でログインするアカウントが違っていて、ログインし直す手間と誤操作を減らしたいという動機。この2つは似た画面の操作で解こうとされがちだが、必要な仕組みは違う。プライベートモードで足りるのか、プロファイルまで要るのか、それとも別のブラウザを立てるのか。分け方には4つの層があり、層ごとに分かれるものと分かれないものが決まっている。ここを整理すると、自分に必要な層が見える。
プライベートモードが隠すのは、この端末の中だけ
最初に、いちばん誤解されている点を片付けておく。プライベートモードやシークレットモードは、端末に残る痕跡を減らす仕組みであって、通信の相手から見えなくする仕組みではない。Chromeのヘルプはこの範囲をはっきり書いている。
シークレット モードを使用すると、デバイスでブラウジングのプライバシーを確保できますが、記録が一切残らないわけではありません。アクセスしたウェブサイト(Google サイトを含む)や、ネットワークを管理している組織(学校、勤務先、インターネット サービス プロバイダなど)には、シークレット モードでのアクティビティが知られる可能性があります。 出典: support.google.com
つまり、共有のパソコンで次に使う人に履歴を見せたくない、贈り物を探していることを知られたくない、といった場面では有効に働く。一方で、社内のネットワーク管理者や接続事業者から見えなくなるわけではない。
もう1つ知っておきたいのが、この層は「同時に使う」ためのものではないということだ。Chromeでは、シークレットウインドウを開いている間に別のウインドウを開いても同じセッションが続き、すべてのシークレットウインドウを閉じるまでセッションは終わらない。2つのアカウントを同時に使い分ける目的には向いていない。
Safariのプライベートブラウズは、痕跡を減らす以外の仕事もしている
macOSに最初から入っているSafariのプライベートブラウズは、Chromeのシークレットモードより守備範囲が広い。Appleの説明によると、プライベートブラウズを使うと、1つのタブで始めた閲覧と別のタブで始めた閲覧がそれぞれ独立するため、表示しているサイトが複数のセッションをまたいで利用者を追跡できなくなる。表示したページや自動入力の情報は保存されず、開いているページはiCloudにも保存されない。
さらに、プライベートブラウズでは「高度なトラッキングとフィンガープリント保護を使用」が既定でオンになる。この設定は、ブラウズ中に集めたデータから端末を識別する手法を使うデータ収集企業への接続を遮断し、既知のトラッキング用のパラメータをURLから取り除く。追跡への対策が既定で入るという点で、単に履歴を残さないだけの仕組みとは性格が違う。
Safariにはプライベートブラウズのウインドウをロックする機能もある。席を外している間に画面を覗かれるという、いちばん現実的な脅威に対する答えとしては、この組み合わせがmacOS上ではもっとも手数が少ない。
使い分けには4つの層がある
分け方を、分離の強さの順に並べる。上ほど手軽で、下ほど強く分かれる。
- プライベートモード。履歴、自動入力、Cookieを終了時に捨てる。同時に複数を使い分ける用途には向かない
- プロファイル。ブックマーク、履歴、パスワード、Cookieがプロファイルごとに分かれる。同じサービスに別々のアカウントでログインしたままにできる
- コンテナ。Firefoxの拡張機能で、同じウインドウの中でタブごとにCookieの入れ物を分ける。窓を増やさずにアカウントを分けられる
- 別のブラウザ。分離としては最も確実だが、機能拡張もブックマークも二重に管理することになる
Chromeのヘルプは、プロファイルの範囲をこう説明している。「プロファイルを使用すると、Chrome 上の情報全体(ブックマーク、履歴、パスワードなど)を、プロファイルごとに分離できます」。仕事用と個人用で別々のアカウントを使う場合が、想定されている使い方として明示されている。
層ごとに何が分かれるかを並べると、選び方が決まる。
| 履歴を残さない | 同時に複数ログイン | 窓が増えない | 追跡への対策 | |
|---|---|---|---|---|
| プライベートモード | する | しない | 増えない | 製品による |
| プロファイル | しない | できる | 増える | しない |
| コンテナ | しない | できる | 増えない | 拡張次第 |
| 別のブラウザ | しない | できる | 増える | 製品による |
この表で見ると、プライベートモードとプロファイルは目的が違うことがはっきりする。片方で解ける問題を、もう片方で解こうとしているケースが多い。
仕事と個人を分けるとき、履歴より先に効くもの
使い分けの動機が「見られたくない」ではなく「混ざると困る」のほうにある場合、効いてくる項目が変わる。実務で問題になるのは次の3つだ。
- ログイン状態。同じサービスの2つのアカウントを行き来するとき、ログインし直すのか、並べて開けるのか。ここが分かれ目になる
- 既定のブラウザ。macOSが持てる既定のブラウザは1つで、「仕事のカレンダーから来たリンクは仕事のアカウントで開く」という指定はできない
- 誤送信。宛先を間違えるより、アカウントを間違えて送るほうが取り返しにくい。いま何のアカウントで見ているかが一目で分かる形かどうかが効く
3つ目は軽く扱われがちだが、被害の大きさで言えばいちばん重い。プロファイルを分ける方式では、窓を間違えたことに気づくのは操作を1つ進めた後になりやすい。Firefoxのコンテナのように色と名前で区別される方式は、送信の直前に気づける確率が高い。
既定のブラウザの問題には、決着の付け方が2つある。1つは、リンクを開く前にどのブラウザで開くかを選べる仲介のアプリを挟む方法。もう1つは、仕事の側のリンクをブラウザではなく専用の置き場所に着地させる方法だ。後者は設定の手数が減るかわりに、何をどこに置くかを先に決めておく必要がある。
プライバシー重視のブラウザを、分け方の道具として使う
分離の層としていちばん強い「別のブラウザ」を選ぶなら、その1つをプライバシー重視の製品にすると、分けることと守ることを同時に満たせる。macOSで選べる主な候補を挙げる。
Braveは、広告とトラッカーの遮断を既定でオンにしている。加えて、既知のトラッキング用のパラメータをURLから取り除き、Chromiumに入っている分割の仕組みを拡張して、サイトをまたいだ追跡を防ぐ作りにしている。Torを使うプライベートウインドウも内蔵していて、IPアドレスを複数の中継点を経由させて隠せる。公式の説明では、Torを使うウインドウは表示の速度が落ちることがあると注記されている。
Mullvad Browserは、Tor Projectと共同で開発されているデスクトップ向けのブラウザで、公式の説明では「Torネットワークを使わないTor Browser」と表現されている。狙いは指紋の縮小で、利用者全員が同じ見た目に見えることを目指している。無料で、VPNと組み合わせても単体でも使える。
DuckDuckGoもmacOS向けのブラウザを配布している。検索の既定が自社のものになっている点と、追跡の遮断が最初から入っている点が特徴になる。
3つとも無料なので、費用を理由に候補から外す必要はない。判断材料になるのは、業務で使う機能拡張が動くかどうかと、社内の認証画面を通れるかどうかだ。指紋の縮小を強く行う製品ほど、サイト側から見た挙動が標準から外れるため、業務用のWebアプリで引っかかることがある。乗り換える前に、社内で使う認証画面を1度通しておきたい。
分けたつもりで分かれていない、3つの穴
層を選んで運用を始めても、分離が抜ける場所がいくつかある。設定の話ではなく、手順の話として現れる。
1つ目は、パスワード管理の拡張機能だ。プロファイルを分けても、同じパスワード管理の拡張に両方からログインしていると、候補として出てくる項目は同じになる。誤って別の側の資格情報を入れる事故は、ここから起きる。分ける単位を決めたら、資格情報を出す範囲も同じ単位に合わせておきたい。
2つ目は、ダウンロードしたファイルの置き場所だ。Safariのプライベートブラウズでは、ダウンロードした項目はダウンロードのリストに表示されないが、項目そのものはMacに残る。履歴が消えたことと、ファイルが消えたことは別だ。
3つ目は、検索の候補と自動入力だ。アドレスバーに打ち込んだ文字から出る候補は、プロファイルをまたがない代わりに、同じプロファイルの中では業務も私用も区別なく出てくる。画面を共有しながら打ち込む場面では、ここがいちばん人目に触れる。共有の前に、その用途専用のプロファイルへ切り替えておく手順を決めておくと、毎回の判断が要らなくなる。
分け方の設計を、道具より先に決める
ここまでを踏まえると、順番は決まってくる。先に「何を分けるか」を決めて、それから層を選び、最後に製品を選ぶ。
分ける単位の候補は3つある。人(仕事と個人)、取引先(案件ごと)、サービス(Gmail、Slack、Notionのような単位)だ。人で分けるならプロファイルが素直に当たる。取引先で分けるなら、数が増えたときに窓が増えない方式が要る。サービスで分けるなら、サービスごとに独立した置き場所を持つ方式が近い。
サービス単位で分ける考え方は、ワークスペースのページで整理されている。用途ごとに独立した場所を作り、その中に必要なサービスだけを置く形で、窓の数を増やさずに文脈を切り替える方式だ。どの機能がログインの分離を解いていて、どの機能がタブの整理を解いているのかは、できることのページの分け方を見ると輪郭がつかみやすい。分けたい相手が特定のサービスであるなら、専用の項目として用意されているかどうかが実際の使い勝手を決めるので、使えるアプリの一覧を先に見ておくと無駄が減る。
分離の強さと運用の手間は、どこかで釣り合わせることになる
使い分けの相談で最後に残るのは、強く分けるほど日々の手間が増えるという関係だ。別のブラウザを立てれば分離は確実だが、機能拡張もパスワードもブックマークも二重になる。プロファイルで分ければ管理は一本化できるが、窓が増える。コンテナで分ければ窓は増えないが、Firefoxの中でしか成立しない。
この釣り合いを決めるのは、分ける単位の数だ。単位が2つなら、どの層を選んでも運用は回る。6つを超えたあたりから、窓が増える方式は現実的でなくなる。1日に何度その単位をまたぐかも効いてくる。1日20回またぐなら、切り替えの手数が1回分減るだけで体感は変わる。
費用の面では、プライベートモードもプロファイルもコンテナも無料で使える。有料になるのは、サービスごとに独立した場所を持たせる方式の道具で、そこでも無料で使える範囲が製品ごとに違う。Waveboxは無料の枠を2つのグループと2つのスペースで区切っていて、有料版は年払いで月8.33ドルから始まる。線の引き方の違いはWaveboxとの比較のページに整理されていて、費用の考え方は料金のページで確認できる。月額の数字だけを並べても、無料の枠に何が入っているかで実態は大きく変わる。残る細かい疑問はよくある質問のページに集まっている。
よくある質問
プライベートモードを使えば、会社に閲覧履歴を見られずに済みますか?
済みません。プライベートモードが減らすのは端末に残る痕跡で、通信そのものは隠れません。Chromeのヘルプにも、アクセスしたサイトやネットワークを管理している組織には活動が知られる可能性があると書かれています。共有のパソコンで次の利用者に履歴を見せないための仕組みだと考えてください。
仕事用と個人用を分けたいのですが、プロファイルとプライベートモードのどちらを使いますか?
プロファイルです。プライベートモードは終了時に痕跡を捨てる仕組みなので、2つのアカウントを同時に開いたままにする用途には向きません。プロファイルならブックマーク、履歴、パスワード、Cookieが分かれるため、同じサービスに別々のアカウントでログインしたままにできます。
分けるほど窓が増えて探しにくくなります。窓を増やさない方法はありますか?
2つあります。1つはFirefoxのMulti-Account Containersで、同じウインドウの中でタブごとにCookieの入れ物を分ける方式です。もう1つは、サービスごとに独立した置き場所を持つ方式の道具に移し、窓ではなく場所を切り替える方式です。どちらも窓の数を増やさずに分離を保てます。
プライバシー重視のブラウザは業務で使っても問題ありませんか?
指紋の縮小を強く行う製品ほど、サイトから見た挙動が標準から外れるため、社内の認証画面や業務用のWebアプリで引っかかることがあります。乗り換える前に、シングルサインオンの画面と日常的に使うWebアプリを1度通して確かめてください。広告の遮断が既定で入っている製品では、同じ役割の拡張を重ねて入れないことも大切です。