Macのブラウザでおすすめを探すなら、Orionが埋める穴を先に見る
Macのブラウザでおすすめを調べると、SafariとChromeとFirefoxの三択に戻ってくるか、聞いたことのない名前が10個並ぶかのどちらかになります。決められない原因は情報の少なさではなく、比べる軸が決まっていないことです。仕事で毎日Gmail、Slack、Notionを行き来している人にとって、速度や見た目より先に効く軸は別にあります。ここではWebKitを土台にしたOrionを題材にして、その軸を具体的に取り出します。
Macのブラウザ選びで、速度より先に効く3つの軸
ベンチマークの数字は、実際の作業では体感に結び付きにくい指標です。1日の作業が止まる原因を思い出すと、たいてい次の3つのどれかに当たります。
- アカウントの入り直し。仕事用と私用のGoogleアカウント、取引先ごとのSlack、自社と受託先のNotion。入り直すたびに数十秒が消え、さらに「いまどちらに入っているか」を確かめる手間が乗ります
- 通知の散らばり。どのアプリが鳴ったのかを探しにいく行為そのものが集中を切ります
- 窓の埋没。開いてあるはずの画面が他の窓の下に消えて、探し直すことになります
この3つは、エンジンの速さではまったく改善しません。改善するのは、セッションをどう分けるか、通知をどこに集めるか、窓をどう常設するかという設計です。Macのブラウザを選び直すなら、この3つに対して各製品がどう答えているかを見るほうが早く決まります。
Orionが埋める穴は「WebKitのまま拡張機能を使う」こと
Orionは、Kagiが開発しているmacOS向けのブラウザです。土台はWebKitで、Safariと同じ系統になります。公式サイトは、WebKitの速度と幅広い拡張機能への対応、そしてゼロテレメトリの3つを同時に満たすことを掲げています。
Safariを使っている人が困るのは、たいてい拡張機能の選択肢です。Orionは Safari、Chrome、Firefox の3系統の拡張機能に対応していて、公式サイトには動作が確認された拡張機能を20個そろえた一覧が用意されています。広告とトラッカーのブロックは追加の拡張機能なしで既定から有効です。
対応するmacOSの幅も広く、配布ページには 26.0 から 10.14 までのビルドが並んでいます。古いMacBookを現役で使っている場合、これは実務上の意味があります。なおiPhoneとiPad向けの版もあり、Linux版はベータ、Windows版はアルファとして開発中と公式に記載されています。デスクトップとモバイルで揃えたい人には選択肢になります。
ブラウザ本体は無料です。有料のOrion+は月5ドル、買い切りは150ドルで、公式サイトはこれをプロジェクトを支えるための任意の会員制度と位置づけています。挙げられている特典は、専用のアプリアイコン、ウィンドウの縁の装飾、コミュニティ内の表示、ベータ版への先行アクセスです。機能の中核を有料で囲う形にはなっていません。
コンテナとプロファイル、この2つは役割が違う
Orionを実務で評価するときに、いちばん効くのがここです。アカウントを分ける機構が2段構えになっていて、それぞれ守備範囲が違います。
コンテナは、Cookieとログイン状態だけを分ける仕組みです。公式ドキュメントは目的をこう説明しています。
Containers enable users to separate specific activities into color-coded containers. The main benefit of containers is that they are isolated from one another, allowing the user to use sites (e.g., email) while logged into different accounts.(コンテナは、特定の活動を色分けされた箱に分けるための仕組みです。箱どうしが隔離されているため、同じサイトに別々のアカウントでログインしたまま使えます) 出典: help.kagi.com
設定はメニューバーの File から Containers、Manage と進みます。既定で Shopping、Social media、Flights の3つが用意されていて、不要なら編集も削除もできます。ウェブサイトルールを使うと、特定のURLを特定のコンテナに固定できます。ルールは細かいほうが優先されるため、kagi.com を1つ目のコンテナに、blog.kagi.com を2つ目のコンテナに割り当てるといった指定が成立します。
プロファイルはもう一段深い分離です。設定、パスワード、拡張機能、ブックマーク、履歴、セッション、サイトのデータがアプリの階層で分かれます。作るときに名前と色、テンプレート、キーボードショートカットを割り当てられ、検索バーの左にある色付きの丸から切り替えます。特徴的なのは、プロファイルがDockに別々のアプリとして並ぶことです。片方が落ちても他方は無事で、Dockから直接目的のプロファイルを起動できます。外部リンクをどのプロファイルで開くかも、設定の General から選べます。
つまりOrionでは、軽く分けたいならコンテナ、丸ごと分けたいならプロファイル、という使い分けになります。アプリごとに独立したワークスペースを求めている人にとっては、この2段構えがどこまで要件を満たすかが判断の中心になります。アプリ単位で分ける発想がどういう形になるのかはワークスペースの説明が具体的で、コンテナとの違いを確かめる材料になります。
Webアプリ化は、Dockに置きたい人向けの機能
Orionには、任意のサイトを単体のアプリとして切り出す機能があります。Tools メニューの Install This Site as an App を選ぶと、名前を付けてDockとFinderにアイコンが作られます。
オプションを開くと、起動時に読み込むURLの指定、デスクトップ版とモバイル版の切り替え、使用するプロファイルの選択、常に最前面に置くかどうか、タイトルバーを表示するかどうか、独自アイコンの設定ができます。ウェブアプリマニフェストに対応したサイトなら、アドレスバーに出るインストールのアイコンからも作れます。作ったアプリは Tools の Manage Apps か、Finderで ~/Applications/Orion/WebApps/ を開くと管理できます。
この機能が効くのは、GmailやNotionを「タブではなくアプリとして」置きたい人です。プロファイルを指定できるので、仕事用のGmailと私用のGmailを別々のDockアイコンとして常設できます。一方で、作られるのは独立した窓です。10個作れば10個の窓がDockに並び、切り替えはmacOSの窓の操作に戻ります。どのサービスをこの形で置けるかを先に棚卸ししておくと迷いません。置き場として想定されるサービスの範囲は使えるアプリの一覧が目安になり、社内システムのような独自URLを足せるかどうかも同時に確認できます。
この形で埋まらない穴もはっきりしている
Orionが答えていないのは、冒頭に挙げた3つの軸のうち2つ目と3つ目です。
通知は各サイトとmacOSの通知センターに任されます。どのアプリが鳴ったかを1か所で受ける仕組みや、時間帯で一括して黙らせる仕組みは、ブラウザ側では持ちません。通知の散らばりが最大の悩みなら、ここは自分で組む部分になります。
窓の埋没も同様です。Webアプリ化で常設できるのは単体の窓であり、複数のサービスを1つの窓の中に並べて切り替える作りではありません。サイドバーにアプリを並べて1キーで往復する形を求めているなら、設計が違う製品を見ることになります。1つの窓にどこまで寄せられるのかはできることの一覧で確認でき、常設の窓と通知の集約がセットで扱われているかが見分けの目安になります。
もう1つ、WebKit系に共通する確認事項があります。日本の業務系Webサービスには、ChromeとSafariでしか検証していないものが混じります。Safariと同系統なので大きく外れることは少ないものの、会計、勤怠、銀行、社内申請は移行前に一巡しておくほうが安全です。日本語入力の挙動も、検索窓とチャット欄で1分試せば分かります。
候補を価格で並べると、無料枠の設計に差が出る
Macで使えるこの周辺の製品を、公開されている料金で並べます。金額だけでなく、無料でどこまで使えるかを併記すると違いが見えます。
| 製品 | 土台 | 無料で使える範囲 | 有料 |
|---|---|---|---|
| Orion | WebKit | ブラウザ本体はすべて | 月5ドル、買い切り150ドル |
| Wavebox | Chromium | 2グループ、1グループあたりアプリ2つ、拡張1つ | 年払いで月8.33ドル |
| Shift | Chromium | 5スペース、1スペースあたり10アプリ | 年199.99ドル、月19.99ドル |
| Rambox | Chromium | アプリ数は無制限、ただし1アプリ2セッションまで | 月7ドル、年70ドル |
| Ferdium | Chromium | 制限なし(Apache-2.0のオープンソース) | なし |
注目すべきは右端ではなく中央の列です。Ramboxはアプリ数ではなくセッション数を絞っているため、同じサービスに3つのアカウントで同時に入りたい人の要件は満たしません。Waveboxはスペースの数で絞ります。どの軸を絞っているかが、そのまま向き不向きになります。有料側の内容と無料枠の上限を同じ表で見たいときは料金の形で公開されていることが多く、買い切りの有無まで確認できます。
なお、この分野は入れ替わりがあります。かつて候補に挙がっていたSidekickはPerplexityによる買収後に終了しており、公式サイトは別のページへ転送されます。移行先を決めるときは、日付の入ったリリースノートと運営元の現状を10分だけ確かめておくと、数年後の手戻りを減らせます。
決め方は「速いブラウザ」ではなく「何を分けたいか」から入る
Macのブラウザでおすすめを探す検索が長引くのは、候補の情報が足りないからではなく、比べる軸が人によって違うからです。同じ「おすすめ」でも、求めているものが3通りに分かれます。
1つ目は、SafariのままでSafariにない拡張機能を使いたい人です。この要件にはOrionが正面から当たります。WebKitのまま、3系統の拡張機能に手が届きます。
2つ目は、同じサービスに複数のアカウントで同時に入りたい人です。Orionのコンテナとプロファイルで届く範囲と、アプリ単位で分ける製品が届く範囲は重なりつつ、運用の手数が違います。数が少なければコンテナで足り、サービスもアカウントも増えていくなら、最初からアプリごとに分かれている作りのほうが管理が軽くなります。
3つ目は、通知と窓をまとめたい人です。ここはブラウザの速度ともエンジンとも関係がなく、通知を1か所に集める設計を持っているかどうかだけで決まります。ターミナルのような常用の道具まで同じ窓に寄せられるかどうかも、この軸の延長にあります。作業の入口をどこまで1か所に集約できるかはターミナルの説明が具体的です。
自分がどれに当たるかは、直近1週間で作業が止まった場面を思い出せば決まります。止まった原因が拡張機能の不足なら1つ目、ログインの入り直しなら2つ目、探し物なら3つ目です。決めたうえで候補を2つに絞り、実際の業務で1週間動かして合否を付ける。この順番なら、比較記事を何本読んでも決まらない状態からは抜けられます。細かい疑問は各製品のよくある質問にまとまっていることが多いので、試用を始める前に目を通しておくと確認項目を減らせます。
よくある質問
OrionはSafariの代わりになりますか?
土台が同じWebKitなので、表示の互換性はSafariに近くなります。違いは拡張機能で、OrionはSafari、Chrome、Firefoxの3系統に対応し、広告とトラッカーのブロックも既定で有効です。ブラウザ本体は無料で、有料のOrion+はアイコンやウィンドウの装飾など、機能の中核ではない特典が中心です。
Orionのコンテナとプロファイルはどう使い分けますか?
コンテナはCookieとログイン状態だけを分ける軽い仕組みで、同じサイトに別アカウントで入りたいときに使います。プロファイルは設定、パスワード、拡張機能、ブックマーク、履歴までアプリの階層で分け、Dockに別々のアプリとして並びます。数が少なければコンテナ、丸ごと分けたいならプロファイルが目安です。
サイトをアプリのようにDockへ置けますか?
置けます。Toolsメニューの Install This Site as an App から名前を付けると、DockとFinderにアイコンが作られます。起動時のURL、使用するプロファイル、常に最前面にするか、タイトルバーを出すかまで指定できます。管理は Tools の Manage Apps か、Finderで ~/Applications/Orion/WebApps/ を開きます。
通知を1か所にまとめたい場合はどうすればよいですか?
Orionは通知を各サイトとmacOSの通知センターに任せる作りで、ブラウザ側で一括して受ける仕組みは持ちません。通知の散らばりが最大の悩みであれば、通知の集約を前提に設計されたアプリ集約型の製品を候補に入れることになります。選ぶときは、時間帯でまとめて黙らせる設定があるかを確認します。