PCで複数アカウントとアプリを共有する前に分ける4つの層
PCで複数アカウントを扱い、アプリも共有したいという相談は、ほどいてみると4つの別々の要求が1つの言葉に押し込められている。1台のMacを家族や同僚と分け合う話と、1人が仕事用と個人用のIDを持ち替える話は、詰まっている場所も直し方も違う。ここでは共有という語が指しているものを層ごとに切り分けて、どこを触れば目の前の不便が消えるのかを見ていく。
共有という言葉が指している4つのもの
分解すると、共有の対象はログイン状態・アプリの実体・ファイル・通知の4つに落ち着く。ログイン状態はどのIDでサービスに入っているかで、Cookieやキーチェーンに残る。アプリの実体はディスクに置かれた本体そのもので、起動できる人が誰かという話になる。ファイルは書類や書き出したデータで、置き場所とアクセス権で決まる。通知は音とバッジで、どのアカウントの出来事が誰の画面に届くかという話になる。
厄介なのは、この4つが同じ操作で一緒に動かないことにある。1台のPCにユーザアカウントを増やすと、ログイン状態とファイルと通知は分かれるが、アプリの実体は分かれない。逆に、ブラウザの中でプロファイルを増やすと、ログイン状態だけが分かれて、ファイルも通知も分かれない。どちらが正しいという話ではなく、揃えたい層と分けたい層の組み合わせが人によって違うだけになる。
最初に決めるのは、分けたいのがどの層かという一点になる。仕事のGmailと個人のGmailを同時に開きたいだけなら、必要なのはログイン状態の分離だけで、PCのユーザアカウントを増やす理由はない。家族と1台を共有していて書類を見られたくないなら、必要なのはファイルの分離で、ここはPC側の仕事になる。要求の層を取り違えると、重い手段で軽い問題を叩くことになり、毎日の切り替えがそのぶん遅くなる。
層を見分ける質問は短くて済む。「その相手に、自分の書類まで見えてよいか」と自分に聞くと、答えがPCの層か、それより上の層かに割れる。見えてよいなら、直す場所はPCの下ではない。見えてはいけないなら、ブラウザの設定をいくら触っても届かない。
macOSのユーザアカウントで分けたとき、実際に分かれるもの
macOSは1台に複数の人が座る前提で作られていて、Appleは人ごとにアカウントを分けることを勧めている。アカウントには管理者・通常・共有のみの3種類があり、権限の広さが違う。アプリのインストールに関する記述は次のようになっている。
通常ユーザはアプリをインストールしたり独自の設定を変更したりできますが、ほかのユーザを追加したりほかのユーザの設定を変更したりできません。 出典: support.apple.com
ここから分かるのは、アプリを入れる行為自体は管理者だけの特権ではない、ということになる。分かれるのは設定と書類のほうで、デスクトップの見た目、ブラウザのブックマーク、ログイン中のセッションは、ユーザごとに別々になる。臨時の利用者のためにゲストユーザを用意する道もあり、この場合はほかのユーザのファイルや設定に触れない形でログインさせられる。
共有のみという種類は少し性質が違い、ファイルにリモートで接続するためだけのアカウントになる。この種類のユーザはコンピュータにログインできず、設定も変えられない。取引先に書類の置き場だけを開けたい場面では、通常のユーザを1つ増やすよりこちらのほうが影響が小さい。
注意したいのは自動ログインで、有効にすると再起動だけでそのユーザの環境に入れてしまう。Appleは管理者を自動ログインの対象にしないよう促している。FileVaultをオンにしている場合は自動ログイン自体が無効になる。
ユーザを切り替える代償は、ログインしたままの人数で決まる
macOSにはファストユーザスイッチがあり、複数のユーザが同時にログインしている状態で素早く行き来できる。メニューバーかコントロールセンターに表示でき、Touch IDを備えたMacなら指を置いて切り替えられる。表示の追加は「システム設定」のメニューバーから行う。
便利な反面、これは席を空けているだけでログアウトはしていない。前のユーザのアプリは開いたまま残り、そのぶんのメモリと処理は使われ続ける。ブラウザを2人分立ち上げたまま切り替えを繰り返すと、体感の重さは1人で2倍のタブを開いた状態に近づいていく。
もう1つの代償は通知になる。切り替えた先の画面には、切り替え元のアカウントの通知は出てこない。家族と1台を分け合う用途ではそれが正解だが、1人が仕事用と個人用を持ち替えている場合は、片方に届いた連絡に何時間も気づかないという事故になる。届いてほしい通知まで一緒に遮ってしまうのが、PCのユーザアカウントで自分自身を分ける方法の弱点になる。
判断の目安は所有者が誰かという点に置くと分かりやすい。座る人が別人ならユーザアカウントを分ける。座る人は同じで役割だけが違うなら、OSの下ではなくアプリやブラウザの側で分けるほうが、切り替えの回数が多いぶん報われる。
アプリの実体は共有できても、サインインは共有できない
1台に入れたアプリを複数のユーザから起動できるかどうかと、そのアプリに誰のIDでサインインするかは、まったく別の話になる。前者はディスク上の置き場所の問題で、後者は各ユーザのホームフォルダに保存される資格情報の問題になる。同じアプリを同じ画面から起動しても、サインイン状態は持ち越されない。
サブスクリプションの扱いも同じ構造になる。Microsoftは家庭向けの契約について、共有しても互いのアカウントはつながらないと明記している。
Microsoft 365 Familyサブスクリプションをお持ちの場合は、サブスクリプションとその特典を最大 5 人の他のユーザーと共有できます。共有するアカウントはリンクされず、メール、写真 & OneDrive ファイルは非公開のままです 出典: support.microsoft.com
つまり共有できるのは使う権利であって、中身ではない。5人で1つの契約を分け合っても、受信箱もファイルもそれぞれのアカウントに閉じたままになる。これは制限ではなく、共有の設計として正しい形になる。
逆に言えば、IDそのものを配る運用にはこの仕組みが働かない。パスワードを回して1つのアカウントを全員で使うと、権利も中身も一緒に共有されることになり、あとから片方だけを取り消せなくなる。アプリの共有で困っているつもりが、実はID共有の後始末で困っている、という取り違えはここで起きる。
ファイルの共有は、アカウントの共有とは別の設定にある
書類を渡したいだけなのにアカウントを分け合ってしまう例は多い。macOSはファイル共有を独立した設定として持っていて、「システム設定」の一般から共有を開いてオンにする。Windowsの端末から接続させる場合はSMBを使う共有を有効にして、接続を許可するユーザごとにチェックを入れる形になる。
このとき接続元に伝えるのは、Macのネットワークアドレスとログイン用のユーザ名とパスワードになる。アドレスはファイル共有をオンにした表示の下に出る。Windowsのユーザごとに、Mac側のアカウントを用意しておくのが前提になる。
Appleはこの経路について、使わないときはアカウントを無効にするよう促している。Windows共有で使うユーザアカウントのパスワードは、安全性の低い形で保管されるおそれがあるためになる。共有をやめるときは、共有そのものを切る前に、有効にしたアカウントを先に無効にする順番が示されている。
ここで押さえておきたいのは、ファイルを渡すのに相手のIDをこちらのアプリに入れる必要はない、という点になる。書類が目的なら書類の経路を開く。アプリの中身を一緒に触りたいなら、多くのサービスが備えている招待や権限付与を使う。アカウントそのものを共有する必要が出てくる場面は、思っているより少ない。
4つの層と、それぞれの手当ての場所
要求の層と、触るべき設定を並べると次のようになる。
| 分けたい層 | 手当ての場所 | 分かれないもの |
|---|---|---|
| ログイン状態 | ブラウザのプロファイル、アプリごとの窓 | ファイル、PCの設定 |
| アプリの実体 | PCへのインストールと権限 | 各自のサインイン状態 |
| ファイル | ユーザアカウント、ファイル共有の設定 | 通知の届き先 |
| 通知 | アプリごとの通知設定、窓の置き場所 | 契約や権限 |
表を縦に読むと、1つの操作で全部は解決しないことが分かる。PCのユーザアカウントは、ファイルと設定にはよく効くが、ログイン状態の切り替えの速さには向かない。ブラウザのプロファイルはログイン状態には効くが、家族に書類を見せない用途には足りない。
横に読むと、副作用が見える。ログイン状態を分けたくてユーザアカウントを増やすと、通知まで分かれてしまう。ファイルを分けたくてブラウザのプロファイルを増やしても、ホームフォルダは1つのままになる。目的の層に効く手段を選び、副作用が許容できるかどうかを見る。この順番で決めると、選択肢は自然に1つか2つに絞られる。
複数の層をまとめて動かしたい場面もある。業務委託の相手に、書類の置き場と作業用のIDを両方渡すような場合になる。その場合でも、1つの操作で両方を済ませようとしないほうが後が楽になる。書類はファイル共有の設定で、IDはサービス側の招待で渡す。入口が2つに分かれていれば、契約が終わったときに片方ずつ閉じられる。まとめて渡したものは、まとめてしか回収できない。
もう1つの目安が、変更の頻度になる。1日に何度も行き来する層は、操作が軽い手段に置く。数か月に一度しか触らない層は、多少手間がかかっても分離が固い手段に置く。毎日20回切り替えるものをPCのユーザアカウントに載せると、その重さが毎日20回返ってくる。
1台を分けずに、窓の数で分ける道
座る人が1人で、必要なのがログイン状態と通知の分離だけなら、PCのユーザアカウントを増やさずに済ませる道がある。サービスごとに独立した窓を持ち、窓ごとにセッションを分けて置く形のブラウザがそれになる。アプリごとに独立したワークスペースを単位にすると、切り替えはユーザの切り替えではなく窓の移動になるため、前の環境を抱えたまま待つ時間が消える。
この考え方で何ができるのかはできることに整理されている。仕事用と個人用のように役割ごとに束ねる作り方はワークスペースで説明されていて、複数のIDを同じサービスに並べたい場合の置き方もここに含まれる。Gmail・Slack・Notionなど、どのサービスをこの形で扱えるのかは使えるアプリにまとまっている。
判断の材料としては、月々の費用と、既存の道具でどこまで届くかを並べて比べるのが早い。同じ分類の製品でも設計思想が違うため、料金だけでなく分離の単位が何かを見ておくと選び違いが減る。その観点での違いはWaveboxとの比較に書かれている。
切り替えの回数を数えてみるのも有効になる。半日のあいだにIDを持ち替えた回数が両手で足りないなら、いまの方法のままで支障は出にくい。数え切れないなら、切り替えの重さがそのまま毎日の損失になっているため、層を移す価値がある。
最初の1手としては、いま分けたい層を紙に1行で書き出すことになる。ログイン状態と書いたならブラウザ側、ファイルと書いたならPC側。書いた層と違う場所を触っている限り、手数を増やしても不便は減らない。
よくある質問
1台のPCに複数のユーザアカウントを作れば、同じサービスの2つのIDを使い分けられますか?
使い分けられますが、切り替えのたびにユーザを行き来することになります。前のユーザのアプリは開いたまま残るためメモリを使い続け、切り替え元に届いた通知にも気づけません。1人で役割だけを分けたい場合は、ブラウザのプロファイルや窓で分けるほうが軽く済みます。
Macに入れたアプリは、ほかのユーザアカウントからも起動できますか?
アプリの実体と、そのアプリへのサインイン状態は別物です。起動できても、サインインの情報は各ユーザのホームフォルダに保存されるため引き継がれません。共有できるのは使う権利までで、受信箱やファイルの中身は共有されない設計になっています。
家族に書類だけを渡したいのですが、アカウントを共有する必要がありますか?
必要ありません。macOSはファイル共有を独立した設定として持っており、共有を有効にして接続を許可するユーザを選ぶ形になります。取引先など外部に置き場だけを開けたい場合は、ログインできない共有のみのユーザを使う手もあります。
通知だけを分けたいときは、どこを触ればよいですか?
通知はアプリ側の設定と、そのアプリをどの窓に置いているかで決まります。PCのユーザアカウントを分けると通知も分かれますが、切り替えていない側の連絡に長時間気づけなくなります。役割ごとに窓を分けて、窓ごとに通知の扱いを決めるほうが取りこぼしが減ります。