PCのログインアカウントが複数あるとき、どの層で分けるか
pc ログイン アカウント 複数、という言葉で調べている状況は、だいたい2通りに分かれる。1台のMacを家族や同僚と共有していて互いの環境を混ぜたくない場合と、使っているのは自分1人なのに仕事用と個人用のログインが行き来していて事故が起きかけている場合だ。検索の言葉は同じでも、手を入れるべき場所は別の階層にある。
1台のPCの上には「アカウント」と呼ばれるものが3層で重なっている。どの層に線を引くかで、分かれるものと分かれないものが変わる。層を選び間違えると、手間だけかかって肝心の混線が残る。ここでは3層それぞれの守備範囲と、選び終わったあとに必ず残る不便までを見ていく。
「アカウントが複数」が指している3つの層
まず言葉を分解しておく。同じ「アカウント」でも、実体はまったく別のものが3つある。
- OSのユーザアカウント … Macを起動したときにパスワードを入れて入る、いちばん外側の層。書類フォルダ、デスクトップ、インストール済みアプリの設定、キーチェーンがこの単位で分かれる
- ブラウザのプロファイル … Chromeなどのブラウザが持つ、閲覧履歴とCookieとパスワードと拡張機能の入れ物。OSのユーザ1人の中に、いくつでも作れる
- Webサービス側のログイン … GoogleやMicrosoft、Slackといった、サービスの中で複数のアカウントに同時に入る仕組み。ブラウザのプロファイル1つの中に、さらに複数が同居する
この3つは入れ子になっている。外側ほど分離は強く、切り替えの手間も大きい。内側ほど気軽に行き来できるが、その分だけ混ざりやすい。検索して出てくる解説は、たいていこのうちのどれか1つだけを扱っていて、しかもどの層の話なのかを明示していない。うまくいかない原因の大半はここにある。仕事用と個人用のGmailが混ざるという悩みに対して、Macのユーザを追加する手順が返ってきても、それは3層のうちいちばん外側を動かす答えであって、多くの人が求めている粒度とは合わない。
一番外側で分けるとき、代わりに払うもの
MacのユーザアカウントはOSが用意している最も強い境界だ。書類も、アプリの設定も、ブラウザのプロファイルごと分かれる。他人と機械を共有していて、相手に自分のファイルを見せたくないなら、この層で分けるのが正しい。
切り替えの方法についてはAppleが手順を公開している。
1台のMacを複数のユーザが使用している場合、管理者は、ファストユーザスイッチをオンにして、同時に複数のユーザがログインしているときに素早くアカウントを切り替えられるようにできます。 出典: support.apple.com
同時にログインしたままにできる、という点が重要で、そして同時に代償でもある。ログインしたままの人数だけ、アプリとバックグラウンドの処理がメモリの上に並ぶ。ブラウザを2人分開いていれば、ブラウザのプロセスも2セット常駐する。切り替えた側の画面では何も動いていないように見えても、機械の負荷は消えていない。
もう1つの代償は、行き来の摩擦だ。切り替えるたびに画面が切り替わり、通知は向こう側で鳴り、コピーした文字列はそのままでは持ち越せない。仕事用と個人用を1日に何度もまたぐ人がこの層で分けると、境界の強さがそのまま作業の遅さになる。逆に、月に数回しか触らない別用途なら、この重さは問題にならない。
判断の目安は使用頻度に置くとよい。日に何度もまたぐならこの層は重すぎる。週に1回以下なら、この層の強さが素直に効く。
ブラウザのプロファイルは、分離であって施錠ではない
1人で使っているMacで仕事用と個人用を分けたいなら、実務上いちばん噛み合うのはこの層になる。Chromeのプロファイルは、履歴、Cookie、保存したパスワード、拡張機能、ブックマークを別々に持つ。同じサービスの別アカウントに、同時に、別々の窓でログインしたままにできる。
ただし、この層で分かれるのはあくまで「情報の置き場」であって、「他人が入れないようにする鍵」ではない。Googleはヘルプでこの点を明示している。
デバイスは信頼できるユーザーとだけ共用してください。デバイスを使用するユーザーは、そのデバイスに設定されている他のどの Chrome プロファイルにも切り替えることができます。他のユーザーがあなたの Chrome プロファイルを開いた場合、あなたがアクセスしたウェブサイトなどの情報を知られる可能性があります。 出典: support.google.com
つまり、プロファイルを分ける目的が「自分の中の取り違えを減らすこと」なら適切に働くが、「他の人に見られないようにすること」なら足りない。後者が目的なら、外側のOSのユーザアカウントまで戻る必要がある。ここを取り違えたまま運用している例は多い。
もう1つ知っておきたいのは、プロファイルはブラウザごとに独立していることだ。Chromeで分けても、Safariや別のブラウザで開けば別の状態になる。PDFのリンクやメールの中のURLが既定のブラウザで開く場面では、意図した側とは違うプロファイルに着地する。
サービス側の追加ログインが得意なことと、苦手なこと
いちばん内側の層は、サービスが自前で用意している複数ログインだ。Googleならアカウントを追加して切り替え、SlackならワークスペースやアカウントをアプリのUIで並べる。ブラウザやOSを触らずに済むので導入の手間はほぼゼロで、多くの人が最初にたどり着く。
得意なのは、読むだけの用途だ。もう一方の受信箱に届いていないかを確認する、共有されたファイルを開く、といった短い往復には十分足りる。切り替えの操作が数クリックで済み、しかも元の画面に戻るのも同じ手数なので、往復の回数が少ないうちは体感の負担がほとんど出ない。追加したアカウントの数が増えても、一覧から選ぶだけで到達できる点も扱いやすい。
苦手なのは3つある。1つ目は、同じサービスの2つを同時に画面に並べること。ほとんどのサービスは1つの窓の中で1つの状態しか持てないので、並べて見比べるには結局窓を分ける必要がある。2つ目は、リンクの着地先だ。外部から渡されたURLは、そのブラウザで最後に使っていたアカウントで開こうとする。権限が無い旨の画面が出て、そこから切り替えて開き直す往復が発生する。3つ目は、拡張機能と通知が層をまたいで共通に効いてしまうことだ。仕事用にだけ入れたい道具が個人用にも効き、個人用の通知が仕事中に出る。
つまりこの層は、行き来の頻度が低いか、片方が読むだけなら成立する。両方で書き込む作業を毎日するなら、上の層に上げたほうがよい。
3つの層を、分かれるもので並べて比べる
同じ「分ける」でも、実際に何が分かれるのかは層ごとに違う。迷ったらこの表の縦の列を見て、自分が混ざって困っているものがどの列にあるかで層を決める。
| 分かれるもの | OSのユーザ | ブラウザのプロファイル | サービス側の追加ログイン |
|---|---|---|---|
| 書類フォルダとデスクトップ | 分かれる | 分かれない | 分かれない |
| Cookieとログイン状態 | 分かれる | 分かれる | 分かれる |
| 保存したパスワード | 分かれる | 分かれる | 分かれない |
| 拡張機能 | 分かれる | 分かれる | 分かれない |
| ダウンロードの保存先 | 分かれる | 設定次第 | 分かれない |
| 通知の出どころ | 分かれる | 分かれない | 分かれない |
| 同時に画面へ並べられるか | 並べられない | 並べられる | 並べにくい |
| 切り替えにかかる手間 | 大きい | 中くらい | 小さい |
読み取れることが2つある。1つは、通知の行が真ん中の層でも分かれていない点だ。プロファイルを分けても、通知はブラウザという1つのアプリから出てくるので、どちら側の用事なのかは画面を見るまで分からない。もう1つは、同時に並べられるかどうかの行で、真ん中の層だけが素直に丸になる点だ。見比べる作業が日常に含まれるなら、選択肢は事実上1つに絞られる。
分けたはずなのに、勝手にログアウトする理由
層を決めて運用を始めたあと、しばらくして「片方が毎回ログインし直しになる」という不満が出ることがある。原因はだいたい3つのどれかで、層の選び方とは別に手当てが要る。
1つ目は、Cookieを消す設定が効いている場合だ。ブラウザを閉じたときに閲覧データを消す設定や、プライバシー保護をうたう拡張機能が、ログイン状態を保つための情報まで一緒に消していることがある。片方のプロファイルだけで起きるなら、そのプロファイルに入れている拡張機能を1つずつ止めて切り分けるのが早い。
2つ目は、サービス側が同時に保持できるセッションの数に上限を置いている場合だ。同じサービスに多くのアカウントを追加していくと、古いものから順に切れていく。追加する数を絞ると起きなくなる。
3つ目は、プライベートウインドウやゲストモードを常用している場合で、これは仕様どおりの動きになる。窓を閉じた時点でログイン状態は残らない。分けたつもりでプライベートウインドウを使っていると、毎回ログインするのが正しい挙動なので、設定をいくら見直しても直らない。
層を決めたあとにも残る、2つの不便
どの層を選んでも消えない問題が2つある。ここを先に知っておくと、選び直しを繰り返さずに済む。
1つ目は、いま自分がどちらにいるのかが画面から分かりにくいことだ。プロファイルを分けても、窓の見た目はほとんど同じで、手がかりは右上の小さなアイコンしかない。取り違えは操作ミスというより表示の問題で、送信ボタンを押したあとに気づくことになる。テーマカラーを変える、窓の位置を左右で固定するといった手当ては、どれも自分の目に頼る運用でしかない。
2つ目は、切り替えの回数そのものだ。層を選ぶ話は「どこに壁を立てるか」であって、「壁を何回またぐか」は別の問題として残る。1日に30回またぐ人は、壁をどこに立てても30回またぐ。しかも往復のたびに、いま何をしていたかを思い出す時間が要る。
この2つに共通するのは、原因が「ログインの仕組み」ではなく「置き場所の設計」にあることだ。1つの窓の中で、時間を分けて複数のアカウントを使い回している限り、どの層で分けても同じ症状が出る。
窓の単位を、アカウントの単位に合わせる
残る手は、時間で切り替えるのをやめて、場所で分けることだ。Webアプリをまとめるブラウザは、アプリごとに独立したワークスペースを持ち、仕事用のメールと個人用のメールを別の場所に固定できる。切り替えは「ログインし直す」ではなく「そこへ移る」に変わり、どちらにいるのかは位置で分かる。
用途ごとの入れ物をどう組み立てるかはワークスペースのページに手順がまとまっている。セッションがどこまで独立しているのかや、通知をアプリ単位で扱えるのかはできることに整理がある。どのサービスがそのまま入るかは使えるアプリの一覧で確認でき、同じ発想の製品との違いと費用の対応はWaveboxとの比較や料金で見比べられる。
この形にすると、上の表で真ん中の層でも分かれなかった通知の行が動く。アプリごとに置き場所が決まっていれば、鳴った音がどの用途のものかは、通知を開く前に位置で判断できる。仕事の時間帯に個人用の場所を閉じておく、という運用も成立する。
まず1週間、仕事用と個人用をまたいだ回数を数えてみるとよい。回数が少なければ、いま使っている層のままで足りる。回数が多いのに毎回ログインの操作をしているなら、直すべきは層の選び方ではなく、窓の数のほうだ。
よくある質問
Macのユーザを分けるのと、ブラウザのプロファイルを分けるのはどちらがよいですか?
機械を他人と共有しているならMacのユーザ、1人で用途を分けたいならブラウザのプロファイルが合います。判断の目安は、混ざって困っているものが書類やアプリの設定なのか、ログイン状態と履歴だけなのかです。後者だけならプロファイルで足ります。
Chromeのプロファイルを分ければ、他の人に見られなくなりますか?
なりません。Googleのヘルプにも、同じデバイスを使う人は他のプロファイルへ切り替えられると明記されています。閲覧の内容を他人から隠したい場合は、OSのユーザアカウントを分けるか、そもそも機械を共有しない運用にする必要があります。
同じサービスの2つのアカウントを、並べて同時に見ることはできますか?
サービス側の追加ログインだけでは難しく、ブラウザのプロファイルを分けて窓を2つ開くか、アプリごとに窓を分ける道具を使う必要があります。1つの窓の中では、多くのサービスが1つのログイン状態しか保持しないためです。
アカウントを分けると、Macは重くなりますか?
分け方によります。OSのユーザを同時にログインさせたままにすると、その人数分のアプリが常駐するため負荷は増えます。ブラウザのプロファイルを増やす場合は、開いている窓とタブの量に応じた増え方で、使っていないプロファイルを閉じていれば大きくは変わりません。