ブラウザの使い分け|仕事と私用を安全に分ける4つの境目
ブラウザの使い分けを調べる人の多くは、すでに一度は失敗している。取引先に送るつもりのファイルを個人のアカウントから共有してしまった、会議中に画面を映したら私用のタブが並んでいた、退職した会社のアカウントにまだログインしたままだった。どれも操作を間違えたのではなく、境目が見えないまま作業していたことが原因になっている。この記事では、Macでブラウザを使い分けるときに選べる境目を4つに分けて、それぞれが何を守り、何を守らないのかを整理する。
ブラウザの使い分けが前提になった働き方の変化
10年前のブラウザは、閲覧するための道具だった。いまは業務そのものがブラウザの中で動いている。メール、チャット、表計算、設計図、請求書、顧客管理。これらがWebアプリに移った結果、ブラウザのログイン状態は「どのサイトを見ているか」ではなく「いま自分が誰として働いているか」を決める要素になった。
働き方の側も変わった。業務委託や副業で複数の取引先を持つ人は、取引先ごとに別のGoogleアカウントやSlackのワークスペースを渡される。正社員であっても、会社のアカウントと個人のアカウント、それに所属する部門ごとの管理用アカウントを持つことは珍しくない。3社の案件を並行して進めていれば、同じサービスに3つの別人格でログインし続ける必要が出てくる。
このとき起きる事故は、情報が漏れる方向だけではない。「相手には見せるべきだったのに、別アカウントで開いていたので共有リンクが届かなかった」という逆方向の失敗も同じくらい起きる。どちらも根は同じで、いま開いている窓がどのアカウントのものかを、作業している本人が把握できていない。使い分けの目的は、秘密を隠すことよりも先に、いま誰として操作しているかを常に分かる状態にすることにある。
境目は4つある。どこに置くかで守れるものが変わる
Macで使える分け方は、大きく4つに整理できる。この4つは機能の優劣ではなく、境目の位置が違う。
- 窓で分ける。同じプロファイルのまま、仕事用の窓と私用の窓を並べる。ログイン状態は共有されるので、同じサービスに2つのアカウントで同時にログインすることはできない
- プロファイルで分ける。ChromeとEdgeとSafariが持つ仕組みで、Cookieも履歴もパスワードもプロファイルごとに分かれる。同じサービスに複数のアカウントで同時にログインできる
- コンテナで分ける。Firefoxの拡張機能が担う仕組みで、タブ1枚ごとに保存領域を分ける。1つの窓の中に、別アカウントのタブを並べられる
- アプリごとの独立した窓で分ける。Webアプリをそれぞれ独立した作業面として持つ形で、アカウントの分離とアプリの分離が同時に起きる
この順で境目は細かくなり、同時に「間違えたときに気づけるか」の性質も変わる。窓で分ける方式は、見た目がまったく同じ窓が2つ並ぶため、取り違えに気づくのが遅れやすい。プロファイルで分ける方式は窓の色や写真で区別できるが、区別できるのは窓の単位までになる。コンテナ方式はタブ1枚ごとに色が付くため、いま見ているタブがどちらのアカウントかがタブの上で分かる。
プロファイルを使う前に読んでおくべき前提
Chromeのプロファイルは、使い分けの手段として最も広く使われている。公式のヘルプは、その範囲をはっきり書いている。
プロファイルを使用すると、Chrome 上の情報全体(ブックマーク、履歴、パスワードなど)を、プロファイルごとに分離できます。 出典: support.google.com
同じページには、見落とされがちな注意書きも並んでいる。デバイスは信頼できる相手とだけ共用すること、そのデバイスを使う人は設定されている他のどのプロファイルにも切り替えられること、他人が自分のプロファイルを開けばアクセスしたサイトを知られる可能性があること。
つまりプロファイルは、Webサービスから見た人格を分ける仕組みであって、Macを物理的に触れる相手から中身を守る仕組みではない。この違いは実務で効いてくる。会議室で画面を共有する場面、ノート型のMacを席に置いたまま離れる場面、修理に出す場面。これらで守りたいものは、プロファイルの境目ではなく、macOSのユーザーアカウントとログインパスワード、それにストレージの暗号化が担当している。ブラウザの使い分けだけで安全を確保しようとすると、この線引きを見誤る。
安全性を上げたいなら、順番がある。まずmacOS側のログインとスリープ時のパスワード要求を確認し、その上でブラウザの境目を決める。ブラウザ側の設定をどれだけ細かくしても、画面がロックされていなければ境目は意味を持たない。
もう1つ、プロファイル方式で見落とされやすいのが機能拡張の扱いになる。機能拡張はプロファイルごとに入れることになるため、仕事用で使っているパスワード管理や翻訳の拡張は、新しく作ったプロファイルには入っていない。ここで「同じ拡張を全部のプロファイルに入れる」という運用に流れると、分離のために作った境目を拡張側が横断することになり、分けた意味が薄くなる。どの拡張をどちらに入れるかは、プロファイルを作った日に決めておくほうがよい。
SafariもmacOS Sonoma以降でプロファイルに対応しており、履歴や機能拡張やお気に入りをプロファイルごとに分けられる。仕組みの考え方はChromeと同じで、窓の単位で切り替える形になる。Macに最初から入っていてバッテリーの持ちが調整の対象になっている点は利点になるが、業務で使うWebアプリがChromeでしか動作確認されていない場合は、そのアプリのために別のブラウザを併用する判断が必要になる。
コンテナ方式は、いま見ているアカウントが目に見える
Firefoxで使われるMulti-Account ContainersはMozillaが配布している拡張機能で、タブごとに保存領域を分ける。同じ窓の中に仕事用のメールと個人用のメールを並べて、それぞれ別アカウントでログインした状態にできる。アドオンのページでは利用者が403,827人、評価が4.6(レビュー8,059件)と公開されている。
この方式の利点は、窓を増やさずに分けられることと、色分けが常に見えていることの2つに集約される。プロファイル方式で起きやすい「違う窓で操作していたことに、送信したあとで気づく」という失敗が、タブに付いた色によって操作の前に見える。特定のサイトを常に指定のコンテナで開くルールも作れるので、リンクをクリックしたときの行き先をある程度は固定できる。
弱点も明確になっている。中核の機能ではなく拡張機能として提供されているため、長く使い続ける前提での保守がMozillaの判断に依存する。そしてFirefoxの中でしか成立しないため、Chromiumでしか動作確認されていない業務用のWebアプリが混ざると、その1つのために別のブラウザを併用することになる。併用が始まると、境目が2種類になって管理する対象が増える。
既定のブラウザを1つしか持てないという制約
4つのどれを選んでも避けられない制約がある。macOSが記憶できる既定のブラウザは1つで、「仕事のカレンダーから来たリンクは仕事用の人格で開く」という指定を、OSの側では持てない。
この制約は、使い分けを始めた直後ではなく、慣れてきた頃に問題として現れる。メールソフトやカレンダーやチャットの通知から開いたリンクが、そのとき既定になっているブラウザに落ちる。落ちた先が私用のプロファイルなら、権限が無いという画面が出て、そこからアカウントを切り替え、もう一度リンクを踏み直すことになる。1回あたりは十数秒でも、通知経由でリンクを開く回数を考えると1日の中で何度も繰り返される。
現実的な対処は3つある。1つ目は、仕事で使う時間帯が長い側を既定にして、外れた分は手で開き直すと割り切ること。2つ目は、Firefoxのコンテナのように、サイトごとの行き先を指定できる仕組みをブラウザの中に持つこと。3つ目は、リンクの行き先を振り分ける別の道具を挟むことで、ただしこの場合は道具が1つ増える。どれも完全ではないため、「既定は1つしか無い」という前提を受け入れた上で運用を決めることになる。
この制約には、安全面での副作用もある。権限が無いという画面が出たとき、そこで表示される「別のアカウントでログイン」の導線を反射的に押してしまうと、私用のプロファイルに仕事のアカウントを追加することになる。1回そうしてしまうと、そのプロファイルには両方のログインが残り、境目が崩れる。画面を閉じて正しい窓で開き直すという手間は、この崩れ方を防ぐためのものになる。使い分けが半年でうまくいかなくなる理由の多くは、設定そのものではなく、こうした場面での1回の操作にある。
4つの境目を並べて比べる
| 分け方 | 同じサービスに複数ログイン | 取り違えへの気づきやすさ | 窓の数 | 業務アプリとの相性 |
|---|---|---|---|---|
| 窓で分ける | できない | 低い(見た目が同じ) | 分けた数だけ増える | 制約なし |
| プロファイル | できる | 中(窓の色と写真で区別) | 分けた数だけ増える | 制約なし |
| コンテナ | できる | 高い(タブごとに色) | 増えない | Firefoxに限られる |
| アプリごとの窓 | できる | 高い(アプリ単位で分かれる) | 1つにまとまる | 対応アプリの範囲による |
表の最終行は、他の3つと性質が違う。Webアプリを1つの窓の中でそれぞれ独立した作業面として持つ形で、アカウントの分離とアプリの分離が同じ操作で片付く。同じサービスの2つのアカウントは、2つの窓ではなく一覧の中の2項目になる。
使い分けを決めるときに、後から効いてくる観点
分け方を選ぶ段階では意識されにくいが、運用が半年を超えると効いてくる観点が3つある。
1つ目は、境目の数と探す時間の関係。プロファイル方式で取引先ごとに窓を分けると、窓が4つになった時点で「どの窓にどのタブがあるか」という2段階の探索が始まる。分離は解決して、探す時間が増える形になる。アプリごとに独立したワークスペースを持つ方式が採る答えは、分離の単位をアプリに移して、窓の数を1つに保つというものになる。案件や取引先ごとに使う道具をひとまとまりで呼び出す考え方はワークスペースのページで説明されている。
2つ目は、対応しているサービスの範囲。アプリ単位で分ける方式を選ぶ場合、日常的に使うサービスがその方式で扱えるかどうかが前提条件になる。どのサービスが扱えるのかは使えるアプリの一覧で確認できる。ここに業務の中心にあるサービスが入っていなければ、結局ブラウザのタブを併用することになり、境目が2種類に増える。
3つ目は、費用と継続性。拡張機能に依存する方式は金銭的な負担が無い代わりに、保守が止まったときに移行先を探すことになる。有料の製品を選ぶ場合は、この先何年使うかを前提に月額を見ることになる。同じ分野の製品がどこで違うのかはFerdiumとの比較やWaveboxとの比較で、無料のものと有料のものを並べた形で整理されている。導入前に出やすい疑問はよくある質問にまとまっている。
この3つは、どれも「今日どちらが便利か」では判断できない。半年後に境目が何個になっているか、そのとき探す時間がどれくらいかかっているかで決まる。使い分けを始めるときは、最初の設定よりも、増えたときにどうなるかを先に見ておくほうが結果的に安全に落ち着く。
よくある質問
仕事用と私用でブラウザ自体を分けるのは有効ですか?
有効ではあるが、続けにくい方法になる。SafariとChromeのように製品を分ければ確実に分離できる一方、既定のブラウザは1つしか設定できないため、リンクの行き先が毎回どちらかに固定される。取引先が3社以上になると製品の数が足りなくなるので、プロファイルかコンテナかアプリ単位の分離に移行する人が多い。
Chromeのプロファイルを分ければ情報漏えいは防げますか?
Webサービスから見た人格は分かれるが、Macを触れる相手からは守れない。Chromeのヘルプにも、そのデバイスを使う人は他のどのプロファイルにも切り替えられると書かれている。画面ロックとログインパスワード、ストレージの暗号化を先に整えたうえで、ブラウザの境目を決めるのが順番として正しい。
Firefoxのコンテナとプロファイルはどちらが安全ですか?
分離の強さはどちらもCookieの単位で成立しており、大きな差は無い。違いは気づきやすさと窓の数にある。コンテナはタブごとに色が付くため誤操作の前に気づけるが、拡張機能に依存しFirefoxの中でしか使えない。業務用のWebアプリがChromiumでしか動作確認されていない場合は、プロファイル方式のほうが選びやすい。
使い分けを始めると動作が重くなりませんか?
分け方によって変わる。プロファイルを4つ開けば、その分だけブラウザの処理とメモリが並行して使われる。Chromeにはメモリセーバーという仕組みがあり、使っていないタブを非アクティブにして再アクセス時に読み込み直す。ただし固定タブや通知のあるページなど非アクティブにできない条件があるため、チャットを開いたままにしたい場合はその分の余裕を見ておく。