仕事用と私用のブラウザを分けるとは|何ができて、どこで詰まるか

仕事用と私用のブラウザを分けるとは、1台のMacの中に、混ざると困るものの境界を引く作業のことです。ただしこの言葉が指している作業は1つではありません。ログインの保存場所を分けることと、画面上の置き場所を分けることは、目的も効き方もまったくの別物です。ここでは「分ける」が実際には4つの層に分かれていること、層ごとに何ができて何ができないか、そして自分がどの層で詰まっているのかの見分け方を整理します。

分けたい理由は、事故と消耗の2つに割れている

分けたいと思うきっかけは、だいたい2種類のどちらかです。

1つ目は事故です。私用のアドレスから取引先に返信してしまった。共有ドキュメントのリンクを送ったら、相手の画面に個人名義のアカウント名が出ていた。画面共有の最中に、私用の通知が右上に流れた。取引先の管理画面に、前の案件のアカウントでログインしたまま入ってしまった。どれも、混ざってはいけない資格情報が1つの保存領域に同居しているために起きます。

2つ目は消耗です。事故は起きていないけれど、目当ての画面にたどり着くまでの手数が多い。似た見た目のタブが並んでいて、どれが仕事のものか毎回読まないと分からない。通知が鳴っても、どのアプリのどのアカウントで起きたことなのか、開くまで判別できない。夜に私用の画面を開いたはずが、視界の端に未読の仕事のバッジが入ってきて、結局そちらを開いてしまう。

この2つは、同じ人の身に同時に起きることが多いのに、症状としては別物です。事故のほうは頻度が低く、起きたときの損害が大きい。取引先に私用のアドレスが知られる、共有設定を誤って外部に見える状態にする、といった形で信用に直結します。消耗のほうは1回あたりの損失が小さく、その代わり毎日何十回も発生します。数秒の探し物と、切り替えのたびに途切れる集中が、気づかないうちに積み上がります。

この2つは、手を入れるべき場所が違います。事故は資格情報の置き場所の問題なので、保存領域に手を入れないと直りません。消耗は注意の問題なので、保存領域を分けただけでは減らないことがあります。分ける作業に取りかかる前に、自分を困らせているのがどちらなのかを決めておくと、余計な設定をしなくて済みます。

在宅と出社が混ざった働き方が定着して以降、1台の端末に仕事の資格情報と私用の資格情報が同居する状況は例外ではなくなりました。会社から貸与された端末を使う場合は、そもそも私用の利用が規程で制限されていることもあります。自分の端末で仕事もする場合は、境界を引くのは自分の仕事になります。どちらに当たるかで、この先に選べる手段の範囲が変わります。

「分ける」という言葉は4つの層に分かれている

同じ「分ける」でも、切っている対象が違います。横に並べると次のようになります。

分ける対象 主な手段 直ること
保存領域 クッキー・ログイン・パスワード・拡張機能 ブラウザのプロファイル、コンテナ、別のブラウザ 誤送信、アカウントの取り違え
見た目 窓・アイコン・テーマ色 プロファイルの色分け、アプリとして切り出す 目で見た判別
置き場所 画面上の位置、Dock、操作スペース Mission Control の割り当て、ウインドウの固定 探す手数
通知と時間 音・バッジ・表示の可否 集中モード、アプリごとの通知設定 中断と夜の侵入

上の行ほど技術的な制約が強く、下の行ほど運用で崩れやすい、という性質があります。保存領域はいったん分ければ自動的に保たれますが、置き場所と通知は自分で守らないと元に戻ります。

保存領域を分ける

これが最も土台に近い層です。ログイン状態を保っているクッキーは、タブではなく保存領域に属しています。1つの保存領域には、1つのサイトにつき1つのログインしか置けません。同じサービスの2つのアカウントを同時に開きたいなら、保存領域をもう1つ用意する以外に方法はありません。

Chrome のプロファイルは、まさにこの用途のための仕組みです。

プロファイルを使用すると、Chrome 上の情報全体(ブックマーク、履歴、パスワードなど)を、プロファイルごとに分離できます。プロファイルは次のような場合に便利です。パソコンを複数のユーザーと共用する。仕事用と個人用などで別々のアカウントを使用する。 出典: support.google.com

Safari はバージョン17でプロファイルに対応し、プロファイルごとにタブグループ・履歴・お気に入り・機能拡張を分けて持つようになりました。Firefox には2つの仕組みが並んでいます。Chrome と同じ発想のプロファイルと、Mozilla が提供する拡張機能によるコンテナです。コンテナだけは分ける単位がタブなので、1つの窓の中に2つのアカウントを並べられます。それ以外の方法はすべて、2つ目のアカウントには2つ目の窓が要ります。

注意したいのは、プライベートウィンドウやシークレットウィンドウが、この層の代わりにはならないことです。追加できる保存領域は基本的に1つだけで、閉じれば消えます。毎日2つのアカウントを行き来する用途には向きません。

見た目を分ける

保存領域を分けても、画面上の窓が同じ見た目のままだと、取り違えは残ります。Chrome のプロファイルにはテーマカラーとアイコンを設定でき、これは装飾ではなく判別のための道具です。窓の端の色が違えば、文字を読む前に「今どちら側にいるか」が分かります。

Webアプリをそれぞれ独立したアプリのように切り出す方法もあります。Dock に別々のアイコンとして並び、⌘Tab の一覧にも別々に出てくるので、ブラウザの中でタブを探す動作そのものがなくなります。できることのページでは、Webアプリを1つの窓にまとめたうえで個別に呼び出す作りがどう組まれているかが説明されています。

置き場所を分ける

macOS には操作スペースという仕組みがあり、Mission Control で追加のデスクトップを作れます。Dock のアイコンを Control キーを押しながらクリックして「オプション」から「割り当て先」を選ぶと、そのアプリが常に同じ操作スペースで開くようになります。仕事の窓は左の画面、私用の窓は右の画面、という物理的な分け方ができます。

この層が効くのは、探す手数に対してです。どこにあるかが決まっていれば、探す動作そのものが消えます。ただし割り当てを守るのは自分なので、急いでいるときに別の場所で開いてしまうと、少しずつ崩れていきます。

通知と時間を分ける

夜に仕事の通知が視界に入ることが問題なら、手を入れる層はここです。macOS の集中モードは、どのアプリからの通知を通すかを指定でき、時間や場所で自動的に切り替えられます。保存領域をどれだけ丁寧に分けても、通知が両方から届く状態なら、注意は切り替わり続けます。

逆に、通知だけを絞っても、ログインが混ざっている状態は直りません。層が違うからです。

詰まるのは、層を1つしか分けていないとき

うまくいかないという相談の多くは、4つのうち1つだけに手を入れて止まっている状態です。

保存領域だけを分けた場合、事故は減りますが、窓が2つに増えた分だけ探す手数は増えます。分けた直後に「前より面倒になった」と感じるのはこのためで、見た目と置き場所に手を入れていないことが原因です。

見た目だけを整えた場合、判別はしやすくなりますが、同じサービスの2つ目のアカウントは開けないままです。色を変えてもクッキーは分かれません。

置き場所だけを決めた場合、画面はすっきりしますが、ログアウトとログインの往復は残ります。1日に何度も切り替えるなら、この往復が最も時間を食います。

4つすべてを同時に完璧に分ける必要はありません。自分が困っているのがどの層かを1つ決めて、そこから下か上に1つだけ足すのが現実的です。

分けても解決しないことがある

境界を引く作業には、届かない範囲があります。ここを誤解すると、設定をいくら足しても不安が消えません。

  • 会社が管理する端末では、ブラウザのプロファイルを分けても、端末に入っている管理用の仕組みからは同じ1台として見えます。プロファイルを分けることと、監査の対象から外れることは別の話です
  • 同じ端末を使う限り、端末が壊れたり紛失したりしたときの影響は両方に及びます。物理的に端末を分けることの代わりにはなりません
  • 既定のブラウザは1つしか指定できません。メールソフトや他のアプリから踏んだリンクは、どちら側のものであってもその1つで開きます。ここは分け方の外側にある制約です
  • 拡張機能はプロファイルごとに入れ直しになります。仕事側にだけ入れたい拡張機能があるなら、それは利点ですが、両方で使いたいものは二重に管理することになります
  • 経費や税務の按分は、ブラウザの設定とは無関係です。分けたという事実が、そのまま記録になるわけではありません

よくある質問のページには、分ける作業で実際に引っかかりやすい点が、質問の形で並んでいます。設定に入る前に目を通しておくと、後戻りが減ります。

自分がどの層で困っているかを見分ける3つの質問

1つ目。同じサービスに2つのアカウントを持っていますか。持っていて、両方を毎日使うなら、保存領域の層は避けて通れません。持っていないなら、この層に時間をかける必要は薄いです。

2つ目。直近1週間で、開くつもりのなかった画面を開いてしまったことが何回ありましたか。回数が多いなら、見た目か置き場所の層です。保存領域をさらに細かく分けても、この症状は減りません。

3つ目。仕事を終えたあとに、仕事の通知を見て手が止まったことがありますか。あるなら、通知と時間の層に手を入れるのが先です。ここだけは、他の3つを完璧にしても自動では直りません。

この3つに答えると、分ける作業の規模も見えてきます。1つ目だけが当てはまるなら、保存領域を1つ増やして終わりです。2つ目と3つ目だけなら、保存領域は今のままでよく、見た目と置き場所と通知の設定だけで済みます。設定にかかる時間は前者で10分ほど、後者でも30分ほどです。分ける作業が大がかりに見えるのは、どの層に手を入れるかが決まっていないあいだだけです。

3つとも当てはまる場合は、上から順に手を入れます。保存領域を分けてから見た目を整え、置き場所を決めて、最後に通知を絞る順番です。逆から手を入れると、土台が動くたびに上の設定をやり直すことになります。

分け方を扱うページを横に並べて分かること

Webアプリを1つの窓にまとめる道具を比べたページを横に並べると、各社が力を入れている層が違うことが見えてきます。Waveboxとの比較は、1つのアプリの中にいくつもの保存領域を抱える作りを扱っています。Shiftとの比較はメールとカレンダーを軸にした分け方、Ferdiumとの比較は自分で構成を持つ形のものを扱っています。同じ「分ける」でも、保存領域に重心を置くものと、見た目と置き場所に重心を置くものがあります。

ワークスペースのページで説明されている単位は、この記事の分類でいえば保存領域と置き場所をひとまとめにした考え方です。アプリごとに独立した作業単位を作り、その中でログインと窓の位置を一緒に持たせます。層をまたいで1つの操作にするという発想なので、層ごとに設定を積み上げる方法とは前提が違います。どちらが自分に合うかは、分けたい対象がいくつあるかで変わります。対象が2つなら層ごとの設定で足りますし、5つも6つもあるなら、まとめて扱える単位のほうが崩れにくくなります。

使えるアプリの一覧を見ると、日常的に分けたくなるサービスは、メール・チャット・ドキュメント・課題管理・デザインの5種類に集中していることが分かります。この5つについて、仕事側と私用側のどちらで使うかを紙に書き出すだけでも、必要な保存領域の数がはっきりします。数が決まれば、どの層にどれだけ手間をかけるかの見当がつきます。

よくある質問

仕事用と私用のブラウザを分けるのに、費用はかかりますか?

主要なブラウザのプロファイル機能、Firefox のコンテナ拡張機能、macOS の操作スペースと集中モードは、いずれも追加費用なしで使えます。費用が発生するのは、複数のWebアプリをまとめて扱う専用の道具を導入する場合です。まず標準機能だけで試し、手数が減らないと感じた時点で有料の選択肢を検討する順番が無駄になりません。

プロファイルを分けると、ブックマークやパスワードは共有されなくなりますか?

分かれます。プロファイルはブックマーク・履歴・パスワード・拡張機能をまとめて分離する仕組みなので、片方で保存したものはもう片方に出てきません。両方で使いたいブックマークがある場合は、手動で登録し直すか、ブラウザに依存しないブックマーク管理の手段を使うことになります。

分けたあとに、外部のアプリから踏んだリンクが意図しない側で開いてしまいます?

既定のブラウザは端末に1つしか指定できないため、メールソフトやチャットアプリから踏んだリンクは、その1つで開きます。よく踏む側を既定にしておき、もう一方は該当の窓にリンクを貼り直す運用が現実的です。リンクの行き先を条件で振り分ける専用の道具もありますが、標準機能では対応できません。

会社から貸与された端末でも、私用のプロファイルを作ってよいですか?

端末の利用規程によります。プロファイルを分けても端末の管理対象から外れるわけではないため、管理者から見える範囲は変わりません。規程で私用利用が禁止されている場合は、分け方を工夫する話ではなく、私用は別の端末で行う判断になります。設定に入る前に、社内の規程を確認しておくのが安全です。

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